質問①「釉薬は、色によって硬いものと柔らかいものがありますか?(後編)」

■第四回うつわ、やきもの相談所 -ギャラリーショップMINOの店長重松さんからのご質問-


 ―質問①「釉薬は、色によって硬いものと柔らかいものがありますか?(後編)」―(聞き手:MINO 重松店長、語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

「質問①前編)」から続く-

作山窯 高井社長(以下 作山窯):・・・洋食器でハイブランドのものであろうが何だろうが入るものは入りますからね。

重松さん:それはスプーンで傷がついたという事ですか?

作山窯:傷じゃないですよ。メタルマーク。金属がこすれた跡みたいなものです。これは捉え方にもよりますが、僕は「使い続けると馴染んじゃうから気にならなくなりますよ。」って言ってます。素材や釉薬にもよりますが、陶磁器の食器を使っていたら防ぐことはできないのでね。基本的に跡はつくんです。でも、その瞬間は気になるけど、毎日使っていたら色んな跡と馴染みますから。

●陶器とメタルマークの関係を説明する作山窯 高井社長

司会:跡がついたらもう取れないんですか?

作山窯:完全には取れないですね。でも傷がついてるわけじゃないから使い続けると少し薄くなりながら馴染んで、段々気にならなくなる。どれくらいで跡がつくかは、使用頻度にもよりますし、スプーンの種類にもよりますよ。銀スプーンでもつくものとつかないものがありますからね。

●優しい質感のマット釉による作山窯のうつわ。

司会:木製のスプーンを使ったらどうですか?

作山窯:金属よりは良いけど、マット釉を使ってる器だったら、メタルマークではないけど汚れはつき易いからね。マット釉*1は優しい仕上がりになるので道具としてはとても暮らしと相性が良いけど、欠点はそこですね。カトラリーなどの跡や汚れがつき易いから扱いに気を使う必要があるという事。

カネコ小兵:うちでもメタルマークと傷の二つの問題はあるよ。「メタルマーク」でスプーンの色がつくのは、釉薬が削れて黒くなるわけじゃなくて、器の表面に金属がくっついた状態と聞いたことがあります。確かに必ずつきますね。昔、アメリカ旅行中にレストランで食事した時の話だけど、最初は料理が盛られてるから分からないけど、食べていくうちに「何かあるな?」と思ったらメタルマークだったんだよね。気になるレベルかどうかはさておき、どんな器でもつくものだと思う。

 そして「傷」。特にぎやまん陶の漆ブラウン釉は、透明感や濃淡がきれいに出るようにかなり柔らかい釉薬として調合してあるので傷はつき易いね。ぎやまん陶は和食器なので、あまりナイフ・フォークを使われる事はないけど力を入れて使えばやっぱり傷はつきますね。

●參窯展会場で語らうカネコ小兵の伊藤社長(左)とmino店長の重松さん

カネコ小兵:改めてですが「メタルマーク」と「傷」って違うものなんです。だから、質問された方の黒い筋はスプーンの色が付いたメタルマークの方だと思うよ。だからスープカップなんかは木のスプーンをお使いくださいとおすすめしますね。

重松さん:さっきの傷つき易いという話が気になったんですが、開催中の「參窯展」でぎやまん陶を展示頂いてますが、積み重ねても大丈夫でしょうか?間に薄紙を敷いた方が良いですか?

カネコ小兵:アイテムによるね。積み重ねた時に高台が直接触れるお皿などは紙を敷いた方がいいけど、鉢とかは重ねても腰で重なるから大丈夫。実際にはうちの展示でも紙を敷いたりするけど、正直そこまで気にはしてないですね。そもそも、ぎやまん陶は箸を使う和食器と認識されているからか傷について言われたことはあまりないね。

司会:和食器は特にやきものらしい良い雰囲気に仕上げる為に、色合いの濃淡が出易くなるよう*2に釉薬も柔らかいですからね。その雰囲気を生み出すために必要な柔かさだからこそ生まれてしまう傷やメタルマークも含めて“やきもの”として受け入れて使って頂けるとありがたいですね。

●やきものらしい雰囲気を大切にするため濃淡が生じ易い釉薬を施したカネコ小兵のうつわ

作山窯:受け入れてくれるよ(笑)。わざわざ私たちのうつわを探して買おうと思って頂ける使い手だったら、きちんと話せば理解してくれるよ(笑)2022年3月4日掲載)⇒【番外編】ご案内②「出張 うつわ・やきもの相談所 in 瑞浪市民公園-CRAFT CAMP VOL.1-mizunami-」に続く・・・*次回3月11日掲載予定(毎週金曜掲載) *追記:4月1日掲載 質問②「電子レンジでの使用を絶対大丈夫と言えない訳とは?(前編)」はこちらに


●脚注:*1.釉薬には透明感を出す為のガラス質(長石分や硅石分)と共に器との付着を良くするために粘土分も含まれます。この粘土分を多く調合するとガラス質の光沢が抑えられ艶消し状態となります。こうした粘土分を多く調合した釉薬をマット釉と呼びます。しっとりとした優しい質感は、光沢のあるガラスの質感とは異なり、やきものの別の一面を見せてくれるマット釉はとても人気の質感です。しかし、ガラス質より粘土分が多い調合という事は、そのまま粘土分の特性である多孔質(表面に顕微鏡クラスの小さな穴がたくさん開いている状態)であるという事でもあるため、金属のカトラリーによるナイフマークだけでは無く、木製のカトラリーであっても汚れがつき易いという欠点も同居します。逆説的に言えば汚れやすい状況だからこそ土を原料としたやきものらしい雰囲気が表現できるという事。窯元が願う「受け入れて欲しい」という想いは、単に土が素材だから汚れやすい事を認めて欲しいという事ではなく、やきものらしい表情を生み出すために生じる別の側面もやきものとして受け入れて欲しい。やきものの好しも悪しも合わせ鏡として愉しんで頂きたいという願いです。 *2.織部釉や飴釉など伝統的な和食器の釉薬でもガラス質を多く含むものは、その調合の特性により焼成時に釉薬が良く溶けて器の中ですら、高いところから低いところに流れ。表面張力の弱いところから強いところにと移ります。そうする事でガラス質の層の厚みに変化が生じ自然なグラデーションが生じ、それを味わいとして愉しみます。しかし、ガラス質が多い、溶けやすいというのは、表面が柔らかいという事を意味し、結果的に傷が付き易い表面となります。これもまたやきものの好しと悪しの合わせ鏡です。


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