質問②「電子レンジでの使用を絶対大丈夫と言えない訳は?(前編)」

■第四回うつわ、やきもの相談所 -ギャラリーショップMINOの店長重松さんからのご質問-


 ―質問②「電子レンジでの使用を絶対大丈夫と言えないわけは?(前編)」―(聞き手:MINO 重松店長、語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

「質問①後編)」からの続き-

司会:二つ目のご質問は電子レンジの使用についてですね。

MINO店長 重松さん(以下 重松さん)電子レンジに関してのご質問は圧倒的に多いですね。「電子レンジ使用可」ってわかっている製品はお答えできるんですけど、迷う製品が多くて…。使用できないと購入をやめる方いらっしゃるので。販売する側としては売りたいですが、実際に使用して破損する事を考えるとおすすめが難しいですね。特に陶器になると返事に困ることがあって、電子レンジ可の製品と比較して「この器なら大丈夫かな」と思っても、「使えます」とは言えなくて「1,2分くらい温める程度でしたら大丈夫ですよ」とお伝えすると納得して頂けることもあるし、そうでない場合もあります。そういう時にどう答えるのが一番いいのかなと、いつも悩んでいます。何かいい答え方があれば教えていただきたいなと思います。

司会:電子レンジへのご回答は作り手としても悩ましいんです。素材によっても異なると思うのですが、陶器を素材として生産される作山窯さんはどのように対処されていますか?

●作山窯のスタイルシリーズ。ピンク色の部分は釉薬の色だが、底の方の黒い部分は素材である陶器の色合い。ざっくりとした質感から陶器の粘土であることが見て取れる。

作山窯 高井社長(以降、作山窯):急激な温度変化に弱い*1aやきものは理論的には割れる可能性があって電子レンジは絶対安全とは言えないから、使えないとしか言えないんですよね。でも、実際に使ってみると正直なところ割れないんですよ。ほとんど割れない。でも、100人に1人とか何かあるかもしれない。特に粘土の分量が多くて厳密にいえば毎回原料比率が異なるような陶器ではそのケースがありえる*1b。だから「基本使えないです。ただ自分がうちで毎日使っている分には大丈夫です。お勧めはできないんですけど。」とお伝えします。

司会:「使って割れたけど」って言われることもありますか?

●器の裏側を見せ陶器素材の特徴を伝える作山窯の高井社長(左)と重松さん(右)

作山窯:ありますね。「使えるかな?と思って使ってみたら割れました」って。でも基本的には同じようにご説明しますね。それに、入れるものによって割れやすさも変わりますからね。割れる理由は急激な温度変化だから、油っけの多い料理や冷凍の料理をそのまま温めると、温度変化は大きくなるから割れ易くなりますね。だから電子レンジはあんまりおすすめしないです。

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):そうですね理論はもちろんあって、それを前提にすると特に陶器の器づくりは1%の破損を心配して使えないとしか言えなくなっちゃうから、お客様への説明はそれとは別にというか、それに加えて重松さんが経験値をもとにどうお伝えするかが大切じゃないかな。理論だけじゃなくて経験値で「私は電子レンジに使っていて温めてますけど大丈夫ですよ。だけど窯元では理論上は電子レンジは絶対安全とは言えないから使えないとしか言えないと聞いています。」みたいな事ではどうかな?

作山窯:そうですね、その方がいいと思います。

●カネコ小兵のぎやまん陶シリーズ。裏返した時に見える白い部分が素材の色合い。食卓に触れる部分に釉薬があると焼成時にくっついてしまうので釉薬をつけないため素材の色が見える。

司会:小兵さんのぎやまん陶は、見た目は伝統的な和食器の風合いを感じますが実は素材が磁器*2ですよね。どのようにご対応されてますか?

カネコ小兵:直接説明が可能な機会であれば、その前後もお伝えしたうえで電子レンジはお使い頂けますよとお伝えしています。高井社長も言ってたけど、割れる理由は急激な温度変化、つまりヒートショックなんですよ。オーブンなんかは顕著だけど、例えばグラタンを作る時に200℃まで上げた後に急に冷ますとパリンと割れる。でも、よくよく考えて頂くと、そもそもやきものは作る時は1300℃とかで焼いてるので、単純に高い温度だからダメという訳じゃないんです。ダメなのは温度変化なんです。特に急激な。製造の際に窯で焼く時も、焼き終わった後、まだ温度があまり下がってないのに窯の扉を開けてしまうと急に温度が下がって割れてしまうんです*1c

●リンカシリーズの小丼を手に取り説明をするカネコ小兵の伊藤社長(左)

カネコ小兵:電子レンジはお使い頂けますと言ってますが、温度が急激に上がり易い【直火】や【オーブン】はお使頂けませんと話します。なので電子レンジがお使い頂けると言う意味は、決して素材が温度変化に耐えれるという意味ではなくて、電子レンジで食材を温める程度なら、最高でも100℃くらいしか温度が上がらないし、器に集中的に熱がかからないから大丈夫ですよって事なんです。2022年4月1日掲載)⇒うつわやきもの相談所「ギャラリーショップMINO店長重松さんからのご質問その②(後編)に続く・・・*次回4月29日掲載予定(毎週金曜掲載


●脚:*1abc.やきものが温度変化に弱い理由は、熱による膨張が発生する事に起因する。そもそもやきものは製造の完成までの間に10~13%程度縮小する。この収縮率は非常に大きいので焼成前と後を比べると明らかに違いが分る。これほどでは無いが完成後も熱が加わった場合は顕微鏡レベルでは膨張や収縮が発生している。この膨張収縮が破損につながる訳だが、器全体が均一に膨張収縮をする分には余り問題は起きない。しかし急激な温度変化があると器の中でも厚いところと薄いところで膨張に差が生じてしまう。例えば、器のフチは厚み2ミリで底は厚み7ミリとすると、薄いフチは熱くなり易いため膨張がはじまるが、厚い底はまだ膨張しないという状態になる。そうして器の場所による膨張率の差で割れが生じ破損する。これは製造時も発生する事があり、それがカネコ小兵が*1cで説明している内容に通じる。この現象は製造上では「冷めキレ」などと呼ばれるが、まだ熱い窯の中に冷たい空気が入り急激に温度が下がる事で、この場合は薄い部分が先に収縮をはじめるため、器の中に収縮率の差が生じてキレと呼ばれる不良が生じる。そうした中、電子レンジが比較的使用可能なのは電子レンジの温め方に起因する。電子レンジはマイクロ波を放出して食材の水分に振動を起こし熱を発生させる。そのため、直火やオーブンは直接熱を発生させ全体を熱くするが、電子レンジは食材のみを温めるので水分の無い食器は直接熱を受ける訳でなく、温まった食材の熱をうけて温まるため急激に熱くなることは少ない。とはいえ長時間使用したりすれば熱負荷は増えどんどん熱くなるため、その場合は器にも熱膨張が発生し破損の危険は生じる。そのため後述にもある「食材を温める程度であれば電子レンジ大丈夫ですよ。」という程度問題としての表現となる。 *2.洋食器の素材として多く使われる磁器素材に和食器の釉薬を施すことの最大の目的は、器としての強度を高める事。特にレストランや居酒屋など器をハードに扱う飲食店では、そのハードさに耐えられるよう磁器を素材とする事を要望されるケースが多い。しかし、磁器に和食器の釉薬を施すというのは器づくりにおいては実は非常に難易度が高い。理由は*1でも語られている熱膨張率。磁器の熱膨張率と和食器の釉薬の熱膨張率には大きな差があり、そのままではいわゆる貫入という表面にひび割れが入ったり、さらにひどい場合はシバリングという器の内側までひびが入り割れてしまうケースもある。そのため、和食器の釉薬の調合を研究し、磁器素材に適した熱膨張率で作り直す必要があるが、それはまるで科学の実験の様に、原料の分量を少しずつ変えたり、原料そのものを研究し制作する必要がある。カネコ小兵のぎやまん陶も開発当時はその90%が不良になったと語られている(このエピソードはコチラでご紹介しています)ように、磁器を和食器の風合いで仕上げることは難易度の高いものづくりの一つである。


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