質問②「電子レンジでの使用を絶対大丈夫と言えない訳は?(後編)」

■第四回うつわ、やきもの相談所 -ギャラリーショップMINOの店長重松さんからのご質問-


 ―質問②「電子レンジでの使用を絶対大丈夫と言えないわけは?(後編)」―(聞き手:MINO 重松店長、語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

「質問②(前編)」からの続き-カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):・・・電子レンジがお使い頂けると言う意味は、決して素材が温度変化に耐えられるという意味ではなくて、電子レンジで食材を温める程度なら、最高でも100℃くらいしか温度が上がらないし、器に集中的に熱がかからないから大丈夫ですよって事なんです。

司会:なるほど使い方というか温度の上り方なわけですね。決して陶器は駄目で磁器は大丈夫*1だから割れないという事でもないんですね。では次に磁器のものづくりとなる深山の松崎社長はどのようにお考えですか?

●深山の特性があらわれている器パレットプレートLサイズ。白磁を素材としているため白が基本色となる。

深山 松崎社長(以降、深山):そうだね。磁器だから割れないってことではないですね。熱膨張に対する強度をポイントとすると、素材というより深山の成形工程にも注意しないといけない点があります。深山は「石膏型による鋳込み」*2と言う方法で成形しています。この成形方法は自由度が高いので四角形や仕切り皿といった色んな形の器を作る事ができるメリットがあります。

●上が鋳込み成形に使う石膏型。下はこの方で作る器。石膏型の窪みの中にある穴が”鋳込み口(いこみくち)”

深山:この成形方法で石膏型に泥を注入する際には、まず鋳込み口という型に開いた小さな穴から泥が入り、そして石膏型の中の器形の空洞を満たすように流れ込み、最終的に器のフチまで泥が注入するわけです。最初に鋳込み口から入って、最後にフチにたどり着く。当然“鋳込み口の付近”と“フチ”では泥が注入される時間や圧力に差が生じます。その、結果として“鋳込み口付近”と“フチ”では泥の密度が変わってしまいます。

●石膏型を開けた状態。内側に器の形の空洞がある。左の器と大きさが違うのは土の収縮率によるもの。焼き上がる際に約13%小さくなる。

深山:この泥の密度の差が熱膨張の差に比例し、それが許容範囲を超えれば割れ易くなることがあるんです。見た目の厚みは同じでも、その内側の泥の密度が異なるとそれが原因となって・・・という事ですね。これはまず開発段階で検討します。密度の差が許容範囲以上にならないよう、製品の厚みや鋳込み口の設置場所を試行錯誤し試作します。そして、その製品が完成したら、どの程度の温度差に耐えられるかを試すスポーリングテスト*3を行います。

●スポーリング試験の結果通知書。LKL窯変呉須という製品を120℃と140℃の2段階の温度差で試験を行い問題が無かったという内容。

深山:そうして、器として温度差に耐えられるかどうかの確認はします。それでも電子レンジでかなり温まった器をそのまま冷水に浸したら割れる事もあります。特に飲食店の様に使用頻度が高いところで、そうした状況が何度もあると・・・。だから使われ方によって絶対に割れないなんてことは言えないので、磁器でもあまりお勧めはしたくないですね。ただまあ、皆さんがおっしゃるように実際にはほぼ割れないんですけどね。

●重松さん(右)に鋳込みについて説明する深山 松崎社長(左)

MINO店長 重松さん(以降、重松さん):熱の伝わり方は陶器の方が遅いですよね?電子レンジで温めても熱の伝わり方が悪い陶器の場合は、器が温まらないから料理の温まりも悪くなって電子レンジを延長してかけちゃうから熱くなりすぎて割れる。ということもありますか?

作山窯 高井社長(以降、作山窯):確かに熱伝導は陶器の方が遅いけど、それはないと思うよ。電子レンジは食材の中の水分を温める機械なわけで、レンジ内全体を熱して器を温め続けるわけじゃないから。

カネコ小兵:水分を温めるという点からすれば、これは理屈の上の話だけど、陶器の表面は顕微鏡レベルで見るとポーラスと言われる多孔質なんだよね。穴がたくさんある状態。だから表面に釉薬をしっかりかけて、その穴を塞いでないと水分が入って、電子レンジなどによる温度変化で急激に膨張したらぽろっ割れちゃうって事はあるかもしれないですけどね。

●電子レンジでの扱いについて話すカネコ小兵の伊藤社長(左)と作山窯の高井社長(右)

司会:磁器でも陶器でも素材に関わらず、理論的には割れる可能性はゼロではないが、使い方次第でその可能性は変化するということですね。

カネコ小兵:そうだね。だから単純に電子レンジが使えるとか使えないではなくて、”陶磁器の特性を踏まえて電子レンジでもどういう使い方が器に優しいかをご説明したうえで、ご自身の体験を踏まえて「私がこう使っている範囲では割れないんですけど…」っていう事”をお伝えしたら、陶磁器の素材の面白さを楽しみながら、前向きにお使い頂けるかもしれませんね。

司会:ありがとうございました。この電子レンジでの扱い方については、三つ目の質問となる「食器のお手入れについて」にも関連しそうですね。それではその質問に移ります・・・2022年4月29日掲載)⇒うつわやきもの相談所「ギャラリーショップMINO店長重松さんからのご質問その③(前編)に続く・・・*来週5月6日はお休みです。次回5月13日掲載予定(毎週金曜掲載


脚注:*1.「陶器」と「磁器」の違いとして、陶器は【土】で出来ていて、磁器は【石】で出来ている。という表現があります。この場合の土と石とは「粘土」と「陶石」という採取時点での状態を表した言葉で、一般的な土と石とは少し意味合いが異なりますし、こう聞くと陶器と磁器は別物という印象を受けます。しかし、原料を科学的に言いあらわすと陶器も磁器も「粘土分」「長石分」「珪石分」という三つ原料で形成されています。異なるのはその分量。「粘土分」は前出でいう【土】、「長石分」「硅石分」はガラス成分で前出の【石(陶石)】に多く含まれるものです。この三つの原料の内「粘土分」が多いと「陶器」に、「長石分」「珪石分」が多いと「磁器」となります。この原料の違いがそのまま陶器と磁器の性質の違いにもつながります。「粘土分」は粒子が大きく顕微鏡レベルでは空洞の多い多孔質な状態となります。そのためこの原料が多い陶器は「吸水性」が残り汚れが沁み易いため、使う前の”目止め”が必要になる反面、その空洞が収縮時の弾力性となるため変化の大きい釉薬を使うことが可能となり、且つ粘土は色や粒度に多様性があるので、やきものらしい面白味のある表情の器を幅広く生み出すことが可能となります。參窯では「作山窯」の器が陶器です。ガラス成分である「長石分」「珪石分」が多い磁器は、焼くとガラス質が溶け固まるため、硬く汚れが沁み込まない素材となります。磁器に光が透ける「透光性」があるのは、この成分に由来します。反面、使用可能な釉薬の幅は狭く表現の幅は限られます。參窯では「カネコ小兵」と「深山」の器が磁器です。つまるところ陶器と磁器は科学的には同じ原料で出来ているが、その分量の違いにより特性が変化します。 *2.鋳込み成形はやきものに限らず鉄瓶などの鋳物にも使われる伝統的な成形方法です。基本的な方法は『型に原料を注入し成形する』というものですが陶磁器の場合、その型の素材に『石膏』を使用します。その理由は石膏の持つ吸水性を利用するため。型に注入する原料は泥状にします。泥状の原料が石膏型に注入されると、石膏が泥の中の水分のみを吸収して原料の磁器のみが残り成形されます。その後、型の中で少し硬化させた後に取り出します。こうして石膏の吸水性を利用して器を形作る方法を「鋳込み成形」と呼びます。 *3.スポーリングテストは、温度差による熱衝撃の耐性を計測するテストです。測定希望の温度差に熱した器を水にドボンと浸して状況を確認します。やきものは成形から焼き上がりまでに10~15%程度収縮しますが、土と釉薬では微妙に収縮率に差があり、その差が大きすぎると貫入と呼ばれる表面のひび割れやシバリングとよばれる器自体の割れにつながります。そのため、窯元の観点ではこのテストは、土と釉薬の収縮率の違いが適正か否かを判断するテストの意味を持ちます。つまりこのテストは決して電子レンジでの使用可能かどうかをテストするものではないという点があります。しかし、その熱衝撃に耐えられる温度が120℃(画像の試験結果書の製品は140℃までOK)であれば、水分を温めるという特性の電子レンジでは100℃以上に温度が上がる事は無いため理論的には大丈夫であろうという点で、電子レンジに使用できるとお伝えします。余談ですが、この際の温度差を何度で設定するかは窯元により異なりますが、もし100℃までしか熱衝撃耐性が無い場合は、電子レンジ内で100℃まで温まった器をマイナス10度の氷水に浸すと温度差は110℃になり破損の危険性は生じます。


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