『何をきっかけに新たな器を開発しますか?』カネコ小兵の場合

うつわ、やきもの相談所】では使い手からのご質問に対して、窯元それぞれのものづくりを背景にご回答します。今回はインスタグラムよりご質問頂いた@yuuchi_21様のご質問にご回答致します。

(@yuuchi_21様からのご質問)私は、生まれた時から古美術が周りにあり、幼少期から何度も作陶体験をしたり、窯の見学にも行っていました。器を作るために、どれだけの手間がかかるがわかるので、手に取ると、作り手さんの思いが伝わります。ですが、一般的には、器自体に興味がない人が多いです。軽いのがいい。食洗機にかけられればいい。割れないのがいい。かわいいのが、かっこいいのがいい。私は今30代ですが、周りは、こういう人たちが多いのが事実です。食の多文化に加えて、食事をとる行為自体のニーズも、変化してきていると思います。器を作るときに、今のニーズを吸い上げるために、されていることはありますか?また、これらのニーズに対応する食器を作るのは、難儀だと思いますが、いつかはこれを作ってみたいという目標があれば、知りたいです。

(三話掲載の二話目)*「作山窯」「深山」の話はこちらの一覧ページより。

‐カネコ小兵の場合‐『想いから始まり、現場で生まれ、繋がりで育つ』

自身を編集者と表現するカネコ小兵の伊藤社長。開発に対する想いを掲載しきれないほどお伝え頂きました。やむを得ず掲載可能な文字数でまとめさせて頂きましたが、この内容の少なくとも5倍は超えたその想いをお話頂きました。

その製品開発のはじまりは、時代の変化に対応する事からはじまりました。

‐現在までの製品開発‐

 もともとは自分が開発する事になるとは思っていなかった。昔は徳利ばかり作っていて、徳利が売れなくなった後もお酒にまつわるものを作っていたが、そもそもお酒を飲む人が減ってくるというのが分かっている以上、やっぱり食器をやりたいとなった。その時は、『世の中にないもの』を『新しい美濃焼』を作りたいと考え【ぎやまん陶】の原点となる漆釉*漆釉が生まれた経緯はコチラを作った。2008年に製品となったぎやまん陶はおかげさまで認知されてディオールでも扱われたりした。製品はロングライフが良いと考えているけど、それでも製品のライフサイクルがあるから次の製品開発を考え2014年に【リンカ】を作った。6年空いたわけですね。そしていま2021年にその二つに続く器を考えている。第三の子を産むということだけどね、もう全然イメージが出来ない(笑)。

‐想いからはじまる製品開発‐

 例えば、2014年の【リンカ】は、昔から妻が丈夫でじゃぶじゃぶ洗える器が良いと言っていたのからはじまり、「丈夫でじゃぶじゃぶ」とはなんぞや?を考え、器のフチが欠け難いよう厚くするとか、普段使いに合うようにハドメイドの感じながら素材は磁器でやろう。と考えた。想いが定まったら使われるサイズ感で開発をはじめる。今は24㎝プレートがよく使われるけど、当時は6寸(約18㎝)とか5寸(約15㎝)とか取り皿のサイズがよく使われたので、そこから始めた。

‐産地で形となる器‐

 「カネコ小兵さんって“リンカ”ですか?“ぎやまん”ですか?」ってよく言われる。同じ人が作ったと思えないという意味でね。

 それはなぜかというと、制作において釉薬屋さんや型屋さんといった製品開発のパートナーの得意なところを尊重しているからで、例えばぎやまん陶とリンカの型屋さんは違うんだけど、ぎやまん陶の型屋さんは研ぎ澄まされた洗練されたイメージの感覚でやってくれる。リンカの型屋さんはハンドメイド的な職人気質みたいな感じのものが出来る。型屋さんに依存するところは大きいな。

 制作がはじまったら、例えばリンカだったら、なるべく軽い方がいいから調整を何回も型屋さんとやる。型は命だから。

 それから色を生み出す釉薬屋さんとも一生懸命やる。今でも窯の中の温度が違うから毎日チェックしてやらんとうまくいかない。

‐使い手とのつながりで育つ食器‐

 そうして開発した製品はロングライフなものにしたい。続くものが何かって言ったらサイズ感だったりのアイテムだと思う。例えば、ぎやまん陶が認知されたら意外に「他のサイズ感やアイテムも欲しい」と言われるようになった。

 そして、この質感で、他のサイズの皿鉢や土瓶や湯呑と言ったオープンな展開をぎやまん陶から始めた。

 そうした使い手の声として大切にしているのが『窯や小兵』というイベント。2011年にホームページを立ち上げたのだけど、そこにきた実物を見てみたいという声をきっかけに2012年3月から毎月第一土曜をショールームを開放する日と決めたんです。使う人と作る人のコミュニケーションをとりたいということで、それで工場も開放したり、そうすると段々ファンも来てもらえて話をするようになって、「もっと大きいのが欲しい」とかこれが欲しいあれが欲しいっていうお客さんも出てきて、それが開発のヒントになってます。

‐伊藤社長の製品開発‐

 俺はコーディネーターというかエディターというか「編集者」かな。ロクロも型削りもできない。できるのはお茶くみと窯起こしと釉薬塗るくらい。完全に知っているというよりも皆さんの力を合わせ編集をさせてもらう。素材はいっぱいある。美濃焼の釉薬屋さんは多様な釉薬を作れるし、型屋も40数件それぞれにすごい特徴がある、とするならそれらを活かしたモノづくりをしたいなと思う。

‐ニーズを得るために行う事は‐

 窯や小兵は大きな存在だよ。料理が好きで、服の雰囲気も良くて、そういう人が来てくれるから、意見を聞いていると作りたくなっちゃう。

‐ニーズに対応した食器を作る難しさ‐

 難しさっていうか苦しみはあるよね。新商品開発は苦しみだもんね。楽しみもあるけどね。窯を開けるときのドキドキ感はすごいよね。今はサンプルも自分で作ってるから焼けたもの見てがっかりすることも多いけど逆に言うと簡単に成功するものは誰でもできるから真似されやすい。一番最初ぎやまん作ったときは100個作って98個失敗したけどこのまま辞めたら、何をやっても真似されちゃうと思って挑戦したらできちゃいましたね。だからかなりノウハウはあるよ。最初の方は真似されたけどみんなできずにやめちゃったからね。キャラメルみたいな飴釉はよくあるけど1300℃の窯でここまでの精度を出せるのはなかなかないと思うよ。

‐いつか作ってみたい目標はありますか‐

 世の中に無いものを作りたい。そのために見本市などで様々な陶器を見たりして、世の中にあるものを知って、そこには無い、それは何だろうって探して作るようにしている。この美濃地区で戦国時代末期に古田織部がそれまでの茶碗の常識を覆した器を作ったように、なんじゃこれは?って思われるようなものが作れると一番いいと思っています。

 ぎやまん陶の漆ブラウンは「他に無いな」って思ったね。

 そして、これから新しいぎやまん+ファミリーを作ろうと考えてるけど、今苦しいところよ(笑)

(取材後記)カネコ小兵さんは、一つ一つの開発に時間をかける印象がありました。その印象の背景にあるものを今回のお話では伺えた気がします。販売するための何かのタイミングに合わせるわけではなく、窯元として次のものづくりに挑戦するタイミングを見計らい、原型師や釉薬屋など産地に点在するものづくりの原点に目を凝らし、やきものを愛する使い手とのかかわりの中で育む。自身を編集者と呼ばれた伊藤社長。様々なきっかけを紡ぎ合わせて誕生するカネコ小兵さんの器には、であるからこそ作り手の想いが溢れながらも、使い手の手元に違和感なく存在しているのだなあと、胸にストンと落ちました。(柴田)

(2021/3/10)*三話掲載の二話目

*「作山窯」の回答はこちらから。

*「深山」の回答はこちらから。

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