『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』‐作山窯編 ③水ゴテ成形による陶器としての形づくり‐

『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』作山窯編二つ目:使い手につながるものづくりの背景の続き


―カネコ小兵と深山から見る作山窯の凄味―(語り手:カネコ小兵・伊藤社長と深山・松崎社長、受け手:作山窯・高井社長)

『三つ目:水ゴテ成形による陶器としての形づくり』

『(左)水ゴテ成形、(右)成形に使用するコテ 詳細は注釈*14に』

松崎社長:この丸い形状(スタイル27㎝プレート)は全部水ゴテ*14なんですか?そう思うと凄いなと思います。たまに機械ロクロ成形*15のメーカーに行き、そこの技術責任者の方に水ゴテは大切な技法だから教えてくれるとはよく言ってくれるんですけど、僕がうかがえる時間がなくて。でも水ゴテを一回やってみたいと思っていて。水ゴテって作ったときに生地が締まりづらいので形を保ちにくい*16というか、土にもよると思うのですが機械ロクロ程締まらないいと聞きますが?。

『スタイルシリーズの器』27㎝プレートは最も大きいお皿。全てが水ゴテ成形で作り出されているが形状は安定している。

高井社長:(手作業で人力なので、機械ロクロの様にマシンで行うほどの)圧力がかからないね。だから締まらなくて歪みやすい。

伊藤社長:マグカップでもさ、ちゃんとここ(口元から少し下のあたり)に歪み止め*17があるよね。歪まんように。我々だとマグカップなどはコテの当て方*18が悪いと歪みやすくなったりするわけよ。やっぱり土は生き物だから。きれいに丸く焼きあがるように、どこかで調整しないと歪んじゃう。そういう意味で水コテを上手にやられているなと思いますね。

(左)スタイルの器の厚みを確認し、(右)コテの動き方を手で表す伊藤社長』

司会:僕は動力成形*19のことは詳しくないのですが、それでも色々と動力成形のカップを触ってきた中で言うと、ちょっと変わった歪み止めのつき方をしているように思いました。口元の歪み止めの部分にはそれほど厚みを持たせず、カップの底に近い根っこの方が割としっかり肉厚があるというか。

伊藤社長:磁器(による器の歪み止め)と(陶器による器の歪み止めの形)は違うかもね。土の種類多いし、経験則でこの土だったらこのコテ、この歪み止めっていうのはあるんじゃないの。

司会:磁器の歪み止めだと、単純に口元の方だけを太くするみたいなところはありますよね。

高井社長:ほんとはそれ(磁器素材での歪み止めの形)が理想ですね。

司会:それは、磁器では可能な事が、陶器では出来ないなどの素材による違い*20があるので、単純にどの技法が優れているという事ではなくて、扱う素材に適したものづくりでどこまでチャレンジできるか?みたいなところが、やっぱり窯元にとっては大切なことだと、改めて作山さんのものづくりから感じます。(2021年2月22日掲載)〉〉〉(作山窯その4「やきものらしい色合いの表現」に続く)

(注釈)*14.『水ゴテ成形』成形方法の一つ。柔らかく調整した粘土を、器の外側の形の凹の石膏型に入れ、器の内側の形をした上画像右側のコテを手作業で動かし粘土を上に伸ばして形づくる工程。量産技法の一つだが手仕事のため比較的少量生産が可能。土の調整や職人の技術で品質が左右される *15.成形方法の一つ。基本原理は水ゴテ成形と同様だが、全ての工程を全自動の機械で行う。生産量が多く大量生産に適している *16.生地を締めるとは成型時に粘土に強い力を加え締め付けて固める事。その状態により、その後の工程で生じる変形などを防ぐことが可能となる。締め付ける力が弱いと形が変形し易くなる。機械ロクロ成形では機械による均一な作業が可能なため個体差を抑えやすいが、水ゴテの場合は、職人の技量により個体差が生じやすくスタイル27㎝プレートほど大きなアイテムを作るには練熟した技術が必要となる。多品種少量生産が可能な水ゴテ成形で、形が変形しづらい良い形状を作る事は難易度の高いものづくりとなる。 *17.器の厚み構造。厚みの内、一部を意図的に厚くすることで、その部分だけ抵抗力をつけて歪みや変形を防止する構造。もちろん全体を厚い構造とすれば歪みや変形は生じないが重くなってしまう。使い易い軽さと、歪みを抑える構造を両立するための構造。 *18.水ゴテで粘土を押さえる方法。ただ押さえるだけではなくて粘土がスムーズに伸び広がるように、コテが粘土に触れる順番をイメージして取り付けないと粘土の密度にバラつきが生じ歪み易くなる。 *19.水ゴテ成形や機械ロクロ成形のような丸い形の器を作るための成形方法の総称。四角形など真ん丸以外の形は鋳込成形と呼ばれる成形方法で作られる。鋳込成形も動力成形も石膏による型を使用することは共通する。鋳込成形については深山の項で説明予定。 *20、陶器と磁器の原料はいずれもガラス質と粘土分。違いはその種類と含有率。陶器は粘土分が多く、磁器はガラス質が多い。その素材の基本的な違いに加え、釉薬や窯との組み合わせの違いや窯元ごとものづくりのノウハウの違いで更なる違いが生まれる。効率性を重視すれば作り易い組み合わせを選ぶが、雰囲気や味わいといったやきものらしさを求めると難易度は高くなる。 


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