『伊藤家の食卓で交わる二種のうつわ(前編)』カネコ小兵 伊藤社長の場合(第一話)‐作り手の大切な器、我が家の食卓‐

『作り手の大切な器、我が家の食卓』作山窯の高井社長編 第四話から続く 


―(第一話)カネコ小兵 伊藤社長の大切な器、我が家の食卓(語り手:カネコ小兵・伊藤社長 聞き手:作山窯・高井社長、深山・松崎社長、野口品物準備室・野口さん、司会:深山・柴田)

『伊藤社長が持ち寄った4種の器。二つずつが暮らしの中で対の器として使われているそうです。』

【伊藤家の食卓で交わる二種のうつわ(前編)】

司会:伊藤社長は自社の製品を4シリーズ持ってきていただいていますね。この器はご家庭でも使われている器なんですか?

カネコ小兵 伊藤社長(以下、カネコ小兵):そうですね使っていると言えば使ってるんだけど…昔。といっても25年前くらいまでは、この食器の一大産地に居ると食器は買うものではなく貰うもの*1だった。それもB級品を。子供のころからそれが日常だから当時は特に器にこだわり持ってなくて、そうして貰った器を使って食べていた。だけど、自分がカネコ小兵を継いで、そして日本酒の徳利以外に食の器も作るようになってから意識が変わったね。うつわを作るのであれば料理を盛りつけたイメージを自分たちが理解し作りあげて、そしてお客さんに提案しないといけないと思った。使い手の感覚とでも言うんですかね。だから今は自分で開発した食器が自宅の食器棚にいっぱいあるんですよ。ちなみに食事の時に実際にどれを使うかは妻が決めるんです。だから使われない器は全く使われない。そして妻が使わない器は実際に売れない。松崎社長の第三話*2じゃないけど「作り手の想い」と「使い手の想い」はやっぱりズレることがあるね(笑)。余談は置いておいて、その中から持ってきたのがこの4種のうつわです。

司会:(笑)そうした食卓の背景のある器たちですね。

カネコ小兵:そう、今日はこの器が、どんな我が家の食卓で使われて、そして生まれてきたのかお話できればと思って写真と器を持ってきました。

『左が写真①ぎやまん陶にカツオのたたきを盛りつけた伊藤家の食卓。右は写真②その経緯からうまれた蕎麦前徳利』

カネコ小兵:まずこの写真①から。良いカツオのたたきが手に入ったから折角だからウチのぎやまん陶に盛りつけてみたんだ。これは自信を持って似合ってると思うんだけど、一緒に楽しむ日本酒はカツオのたたきに合わせて高知の酒「土佐鶴」を熱燗を呑んだりして愉しんだんです。

『蕎麦前徳利の写真(写真②)を見せながら説明する伊藤社長の手』

カネコ小兵:そうすると、元々ウチでは徳利を製造していた*3訳だから、やっぱり徳利が気になる。でね、ちょっと話は広がるんだけど、江戸時代ころから日本には「蕎麦前」っていう蕎麦屋でお酒を飲む時の習慣みたいなものがあるんです。蕎麦は注文してから湯がく時間がかかるので、江戸っ子はその間に板わさなんかと日本酒を一合くらい呑んで楽しみながら待って、そして蕎麦があがってきたらサッと食べて帰る。その粋な呑み姿を「蕎麦前」と称すらしいんです。その姿が格好良く感じてたこともあって、ちょうど一合入る少しクラッシクな形のこの蕎麦前徳利を作ったんです。そして、それをイメージして食卓で撮ったのがこの写真②。

司会:作り手としてぎやまん陶の事ばかり考えてたらぎやまん陶シリーズに何を加えようかとか考えてしまいそうですが。使い手として純粋にぎやまん陶でカツオのたたきを愉しんだから、その傍らにある酒の器が気になって結果的に蕎麦前徳利が誕生したわけですか。使い手の発想だからぎやまん陶にこだわらない自由な製品開発が出来たんですね。

カネコ小兵:器を作ったら、それをぎやまん陶であったり、若しくは他の窯元の器であったりと合わせてみて、どう使ったらその食卓が愉しいのかを使い手の目線になって確認するようにしてるんです。せっかくやきものを作ってるんだから自分も使い手として楽しんで使う食器を作りたいっていうのはありますね。そんな風に食卓では使い手として楽しんでます。次はこの重箱だけど・・・。2021年7月2日掲載)⇒第2話『作り手の大切な器、我が家の食卓』カネコ小兵 伊藤社長の場合に続く・・・*7月9日掲載予定(毎週金曜掲載)


●脚注:*1.日本国内で生産される陶磁器の60%程度をまかなう岐阜県多治見市、土岐市、瑞浪市の三市を産地とする美濃焼。産地内には現在でも300程度の窯元が存在するが、25年以上前はその倍以上の窯元が存在した。そうした時期は窯元との関係は近く使う事に問題の無い不良品はB級品として隣近所に渡り使用されていた。窯元によってはB級品置場のものは勝手に持って行っても良いよくらい手軽に手に入った。そのため、食器を買う習慣は無かった。半面、食卓ではとんかつを煌びやかなディナー皿で食べるなど奇妙な光景が広がり、一層食器に無頓着となった。 *2.作り手と使い手の想いの違いは深山の松崎社長第三話の【一番身近で、一番正直な使い手の視線は誰?】あたりでも松崎社長とその奥様との器に対する意識の違いが語られています。 *3.かつてカネコ小兵製陶所が日本酒用徳利を製造していた経緯は第一回座談会【參窯の始まり】でもご紹介しています。。


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