『作り手の大切な器、我が家の食卓』*深山の松崎社長編 第二話から続く
―(第三話)深山の松崎社長の大切な器、我が家の食卓―(語り手:深山・松崎社長 聞き手:作山窯・高井社長、カネコ小兵・伊藤社長、野口品物準備室・野口さん、司会:深山・柴田)
【選んだうつわをまとめてみると】
司会:五つの器のご紹介ありがとうございます。改めて見渡すと洋食器、和食器、クラフト、工業製品*1と多種多様ですね。その瞬間に興味を持ったうつわを衝動的に買い集めている感じですか?。
深山 松崎社長(以下、深山):そう、バラバラ(笑)。だから、今日は持ってきてないですが窯元の個性が分かり易いフリーカップ*2は食器棚に山ほどあります。このアイテムは不思議なもので、有田焼の薄くてカッコよい器が好きで持ってますが、普段使おうと思って食器棚を開けて選ぶと、どうしても少し厚みがあって安心できるものを無意識に選んじゃうんですよね。フチが薄いのは割ってしまうんじゃないかと怖くて手が伸びないんですよ。店先で「良いな」って思って買ったものと、家で日常的に使うものはちょっと違うなと思いますね。僕の場合はですけどね。
【使う時に無意識に手に取ってしまう器とは?】
カネコ小兵 伊藤社社長(以下、カネコ小兵):使い分けする時にルールはあるの?
深山:いや、特にルールは無くて食器棚を開けた時のフィーリングですけど、お気に入りはありますよ。小石原焼のとび鉋*3のカップ。厚みがあって使い易くて。気楽に使えるんですよね。
作山窯 高井社長(以下、作山窯):結局、普段使いだと使い易さで選んじゃうよね。
カネコ小兵:そうそう、薄い作りのものは不安を感じちゃう*4から、ある程度重量感あった方が安心感あるよね。
深山:全くそうで、薄いつくりの器って見た目が良いのでいくつか買ってるんです。薄い青磁に線刻が入ってるものや、外側全面に染付で絵柄が描かれたフリーカップとか、すごく良いんです。良いんですけど、いざ使おうと思うと心配になってしまうのか、本当に無意識に選ばないんですよね。
司会:買うときは作り手目線で買って、買ってからどう使うか考えられてる感じですね。
深山:そう!買ってから考えるから使いにくいなあと思うこともありますね。正直に言えば勝率は五分五分くらいかな。
野口さん:でもそういう器はゲスト用に使うにはよさそうですね。
深山:そうですね。僕は作り手のこだわりなのか気にしすぎて使うのをためらうけど、妻はお客さん来た時は使っていると思います。
司会:作り手目線で購入したものはご家族との感覚は合うんですか?
【一番身近で、一番正直な使い手の視線は誰?】
深山:やっぱり異なる部分はありますね(笑)。それは好みの話では無くて、何にこだわるかっていう目線の話ですね。家の食器であっても作り方が気になる僕と、価格も含めて使い易さが大切だと考える家族ではどうしても異なりますよね。もちろん、どちらが正しいという事では無いのはお互い十分理解してるから問題はないですけどね。ただ料理を作って器を使うのは妻の方が多いので、食器を扱ったり洗ったりしてる時はどうしても気になりますね。扱いの音とか(笑)
カネコ小兵:大丈夫な加減がわかって使ってるんじゃないの?
深山:まあそうですね、でも欠ける事もありますよ。まあ、それも含めて食器なのでその都度買い換えてますね。伊藤社長が持たれてる白磁にブルーのペイントが施されている器(⑥)なんかがそうだったりしますね。この器はPASS THE BATONというプロジェクトから生まれたヨーロッパの食器ブランドの欠点がある器に絵付けをする事で不良品として廃棄するのではなくてリニューアル品として生まれた器ですが、これも深さがちょうどよくて使い易いみたいで、妻の使用頻度も高い器ですね。
野口さん:松崎さんと奥さんの感性が一致した器ですね(笑)。でも、きっと奥さんの感覚がごく一般の感覚なんでしょうね。
カネコ小兵:使われるかどうかはやっぱり妻次第だね(笑)。うちでも俺の考えて作った器を食器棚に置くまではいくけど、妻が気に入らなかったら絶対使われないよ。なんで使わないか聞いたら「どうやって盛ったらいいか分からない」って。もっとも身近で正直な使い手の目線って妻だなぁ。
深山:最初このお皿(下画像)の大きいサイズを買った時も「どうやって使うの?」って聞かれたけど、使い方を考えて買ったわけじゃないから答えられなかったです。
カネコ小兵:きっと女性の場合は料理のイメージがわかないと買わないんだろうな。だから買ったのに使い方がイメージできないってのが理解できないんだろうね。
松崎社長:僕はこれの場合だと「よく鋳込めたな」*5と感心しちゃったから手が伸びて買っちゃいましたからね。こんなドーナッツ状の持ち手のところに泥がきちんと入っていって、しかも鋳込み口こんなところにあるし凄いなと思って。使い方の事は考えてなかったですからね、買う時は。でも結局は妻が上手く使ってくれたのでこの器も勝ち組になれましたけどね(笑)
カネコ小兵:(笑)(笑)(笑)そこは奥さんは絶対に見ないよ。作り手の目線よそれは(笑)。技術的な部分はすごいと思うよ。すごいから買っちゃたわけだよね。それを奥さんが上手く使ってくれるから結果オーライだし、家庭の中で作り手と使い手の役割分担できててまさにパートナーじゃない(笑)。(2021年5月28日掲載)⇒『作り手の大切な器、我が家の食卓』作山窯 高井社長の場合(第一話)に続く・・・*6月4日掲載、毎週金曜掲載
●脚注:*1.やきものの食器の原料は身近な土、世界中に時代に関わらず素材があるからスタイルも多様となる。国によって異なる「和食器」や「洋食器」のスタイル。作家の手作りによるクラフトな器、機械化された工場による工業製品な器、工房による手作りの範囲内で量産が可能となるなどのものづくりを根拠としたスタイルなど。みんな違ってみんな良いが、一般的にはこれらから好みのライフスタイルに合わせてそろえるが、松崎社長の器は多種多様。ライフスタイルよりものづくりを楽しんだ集め方。 *2.少し大ぶりで200~300㏄程度入る取っ手の無いカップを総称としてフリーカップと呼ぶ。コーヒーカップや煎茶碗のように飲むものに囚われないフリーなカップとして使われる。 *3.『こいしわらやき』と読む。福岡県朝倉郡で生産されるやきもの。手作りが中心で土ものを轆轤などで成形し削り込むなどし文様を彫り込む。その中でも『とび鉋(鉋)』と呼ばれる技法が特徴。 *4.本来は薄いから素材自体の強度が弱くなる訳では無いのである程度安心して使えるが、薄すぎると扱いが心配になる。製造しているメーカーでさえもそう感じるほど薄く作られたうつわは存在する。 *5.この器は石膏型に泥状の粘土を注入してつくる『圧力鋳込』で作られているが、その場合、泥は型に開いた小さな穴『鋳込み口』から中に入ってくる。この器の様に取っ手のようなドーナツ状の部分があると泥がスムーズに型に注入されず不良の原因になる。しかしこの器ではそうした傾向がみられないため、その点に松崎社長は凄味を感じた。
■過去の座談会記事一覧
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