(第七話)『飛騨の家具を受け継ぎ繋げる』 他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐

『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐』(第六話)FROM HIDA。そして使い手とのつながりから続く


(第七話)『飛騨の家具を受け継ぎ繋げる』(語り手:株式会社日進木工 北村社長 聞き手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):少し前ですが、ある調査機関の方が量産家具の産地である○○地区を視察してショックを受けたとおっしゃっていました。いわゆる大量生産型で付加価値が全然見えなかったそうで・・・。その方は高山の家具製造も視察したそうですが、飛騨の家具は本当に良いと感じたそうです。付加価値を生み出すことができるこの飛騨の特徴は大切ですね。

●『飛騨の家具ものがたり』2012年3月発刊。約50ページの中に「飛騨デザイン憲章」などものづくりの想いが込められている。

日進木工 北村社長(以降、日進木工):「飛騨の家具」は本当の国産です。これは飛騨木工連で作った「飛騨の家具ものがたり」という冊子です。何年も前なので表紙にはちょっと古臭さも出てますが(笑)。まず、3ページ見開きのところに記載してある通り「飛騨の家具」という商標で地域団体商標をとっています。

 飛騨の家具を名乗るには、いくつか決まり*1があります。例えば「木取り」以降の加工は飛騨地域でやって純国産ですとか、10年間の保証をしていますとか。そんなことを含めてちゃんと飛騨の家具として名乗るためのポイントを定めています。現在、飛騨の家具を名乗れるのは8社です。

●日進木工の資材置場で「木取り」工程を終わり乾燥をすすめる木材。

日進木工:だから飛騨の中でも「飛騨の家具」じゃない家具があります。ベトナムとか中国で作った家具の最終加工だけをこっちで行う家具は「飛騨の家具」のブランドでは売れないということになっています。先ほどお話の○○地区(量産家具生産地)は、実情はアジア地区で作られた家具の箱詰めとかラベリングなど最終加工だけを行う家具の集積地となってます。ですので調査機関の方のお話のように飛騨は純然たる産地として認識されているのはありがたいですね。

 そうして産地としてきちんと認識頂けるのには、かつての飛騨の匠の努力の歴史があるわけなので、私たちはその名に恥じないモノづくりをしようという気概もあります。その想いがこの地域の特徴の一つですね。

●飛騨の匠のものづくりを伝えるページは日進木工のウェブサイトにも

作山窯 高井社長(以降、作山窯):このルールに反対や意見される方はいなかったですか?

日進木工:もちろんいました。本社工場は高山ですが中国にも提携工場をもっていた会社があって、それを両方販売していたんです。なので「飛騨の家具」は企業単位でなく製品単位の承認としました。飛騨で作ったものは「飛騨の家具」を名乗っていいけど、東アジアなど他国で加工したものは対象外です。

カネコ小兵:少し意地悪な質問ですが、国産とは、どこまでが国産ですか?素材は?

日進木工:今は一般的な家具の素材にはほとんど国産の材料は使えません。理由は木の大きさと言うか太さです。テーブルなどに使う広い面を取るには大きな木が必要です。昔は飛騨でも大きい材料が取れたんですが、現在は小径木ばかりになって、この地域もアメリカ産に頼るようになっています。アメリカ産の安心できる点は、まず合法木材として、違法な伐採でない事が証明されている事は大きいです。そして、あれだけ大きな国なので、まだまだ供給力がしっかりある。そういったことでアメリカ産を使っています。正直、材料はやむを得ないですね。

●「木取り」について表や道具をもとにご説明頂く日進木工の北村社長

司会:先ほど飛騨の家具を名乗るのに「木取り」から必要と言う事でしたが、丸太はアメリカから仕入れても、それを家具に使う大きさにカットするところから国内でやればと良いということですね。日本が小径木ばかりになったのは乱獲があったという事ですか?

日進木工:うーん、乱獲が無かったとは言えませんが、それ以上に日本の林業の課題ですね。成長が早く住宅資材とし使い易い針葉樹のヒノキやスギが重点的に植えられたのですが、結局活用されないまま今に至っていて、家具に適した広葉樹を植える場所がない。スギ・ヒノキをもっと使って、その場所にナラやブナを植えて広葉樹の森に戻せばよいですが、現状は、そうなっていません。

司会:そもそも広葉樹が大きく育つ環境が無いのは根本的ですね。少しもどりますが「飛騨の家具ものがたり」の内容を拝見するとかなりの情報量ですが飛騨木工連だけで作られたんですか?

日進木工:そうです。一番後ろのページに「ブランド化推進部会」という記載がありますが、当時理事長だった父たち先代の代表が集まり飛騨の家具の創成期近く*2から見ている知見が深い方々が、皆で協議しながら考え制作したそうです。それが先駆けになって生まれた本がこちらの「飛騨の匠ものがたりの1~4巻」です。

●ショールームのテーブルに並ぶ飛騨の匠ものがたり1~4.

作山窯:これを全て本にしたんですね。すごいですね。

日進木工:こちらの制作は匠学会で組織としては別ですが、携わっている人は同じく飛騨の家具作りを良く知った方たちです。飛騨の匠のものづくりが今の家具づくりに結びついた歴史などを紹介しまてます。これもほとんど自主編集ですね。

深山 松崎社長(以降、深山):ものづくりをされている方それぞれに、誇りや地域資源への意識があるんですね。自分に置き換えると、これだけのエネルギーをどうやって生み出すのだろうかと頭を抱えますね(笑)。

カネコ小兵:このエネルギーは一人では生み出せないから、全体が動かせる工業組合の理事長を若い松崎君がやるべきだって事じゃない(笑)。やること見つかったね。

深山: (苦笑)

日進木工:でも、昨年開催された陶磁器フェスティバル*3を見に行きましたけど、すごいなと思いました。セラミックバレーの展示も面白かったです。

●国際陶磁器フェスティバルの主要イベント「国際陶磁器展美濃」会場風景。手前の小皿は參窯の一つ「深山」の楽小皿。奥に見えるオブジェなど製品から作品まで生み出さす美濃の幅広が差が伝わる。 

カネコ小兵:内容は良かったからね。問題は、あれをどうやって繋げていくかですよね。だから今日見させてもらった本として形に残すのは良いなと思いましたね。

司会:「飛騨の家具憲章」「飛騨の家具ものがたり」など、これらを制作するきっかけはあったんですか?

日進木工:「危機感」ですかね。ちょうどこの頃に中国産の安い家具がどんどん入ってきて国産家具が脅かされてきた。価格競争は出来ないから差別化のためにはブランド力が必要だという先代たちの危機感があったからだと思いますよ。

●飛騨木工錬も參窯も真摯にものづくりに向き合うことで実感するその危機感。

カネコ小兵:家具だと、この頃ニトリだとかイケアとか色々出てきたよね。陶磁器産業でも中国産製品の勢いはすごかった。確かに海外の安価な人件費による大量量産の製品と国内産地の製品が消費者に同じように見られたら困りますからね。だからこそ品質や機能性で差をつけて、それを表すブランドマークがある事で 海外産との差別化を考えないといけない。家具も陶磁器もその点は同じですね。2022年8月26日掲載)⇒第六回座談会「⑧(仮)ものづくりの規模と幅」に続く・・・*9月16日掲載予定(毎週金曜掲載)


●脚注:*1. 「飛騨の家具」は【エコロジー基準】【産地基準】【保証基準】【品質基準】【木材基準】【デザイン基準】の六つの認証基準全てをクリアしないと名乗る事は出来ない。例えば、【産地基準】では木取り以降の木部の加工を全てを飛騨地域内で行う必要があり、【保証基準】では10年間の保証が必要である。組合員であっても基準を満たせない場合は飛騨の家具とは名乗れない。それぞれの基準の詳細は下記にてご紹介している。 

●飛騨の家具の六つの認証基準要綱

*2.飛騨高山で産業として家具作りが始まったのが1920年。102年前のこの年に飛騨産業が誕生し飛騨高山での家具作りは歩み始め、高度成長期などを経て大きく発展した。先代代表の年代はこうした創成期からの活気を体感しており、その記憶が「飛騨の匠ものがたり」に凝縮されている。創成期のころのお話は第一話「高山の各産業の始まりと今」に掲載。 *3.国際陶磁器フェスティバル美濃とは1986年よりトリエンナーレとして三年に一度開催される世界でも最大級の陶磁器の祭典。世界中から優れたデザインや造形作品が集い競うコンペティション『国際陶磁器展美濃』をメインのイベントとして多治見市、土岐市、瑞浪市の陶磁器生産地で多様なイベントが開催される。次回は2024年開催予定。公式ウェブサイトはコチラ。https://www.icfmino.com/ 


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