(第10話)『いったい何を企画するのか?』‐美濃焼について思うこと‐

『美濃焼について思うこと』*第9話「下請けから自社開発へ」から続く


―(第10話)いったい何を企画するのか?―(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

カネコ小兵 伊藤社長(以下 カネコ小兵:(松崎社長が言う「今、企画は必要か?」には)確かに一理ありますが、僕はちょっと違う考えで、食生活って時代に応じて変わってると思わない?例えば朝ごはんの形式も昔と今では変わったし、レンチン製品でも美味しいものが食べられるようになった。そうして食生活が変わったら、使い易さも変わると思うんです。そうしたライフスタイルの変化に応じて器にある色んな要素の何を大切にするかは変えていくべきだと思うんですよね。可能性はまだまだあると思うんです

司会:色や形だけでなく、暮らしの在り方を企画として組み込むという事ですね。

カネコ小兵:だから「丸い皿」って一言で言ってしまうけど丸でもいろいろあるよね。この深さがいいとかね。カネコ小兵でも楕円皿(ぎやまん陶楕円焼物皿→online store)をおすすめしてるけど、カレー食べるにはもうちょっと深い方がいいとか、人や食事によってそれぞれあるわけだし丸い皿なら一様でいいということじゃないよね。特に我々みたいな小規模なものづくり*1はそういう世界を研究していけばいいような気がするね。

●楕円焼物皿を開発した際にお皿の深みについて語っていたカネコ小兵の伊藤社長

深山 松崎社長(以下 深山):そうですね、形が丸いとか荒っぽく言っちゃいましたけど、作山窯さんの器の時の話(詳しくは「ディティールから広がるものづくりの凄味」にて)じゃないですけど皿の裏側の高台の作りだとか大きさだとか全体のバランスみたいなところを考えるという意味では確かに企画が必要ですね。

カネコ小兵:食器の中でも「いいものを使ってみたい」「もうちょっといいものが無いかな?」と探してる使い手のために我々が提案をしていくのが大事なことだと思います。

司会:製品開発の度に「こういう生活にこういう器が必要」という想いと、「これを深山で作る意味はあるか?」という考えが前後します。それは、そもそも素材や技法の面で作れないもの*2ありますが、それとは別に窯元の背景から、その器を作る意味があるか無いかという点は窯元によって異なるとも思うのですが?

カネコ小兵:やっぱり窯元らしさは大切じゃないの?深山の人が考えて深山らしさをどうやって出すかが「深山」そのものなんじゃないですかね。例えばうちの製品みたいなスタイルを深山が作ったらそれは深山じゃないもんね。言葉にすると当たり前だけど「小兵は小兵で」、「作山は作山で」、作ってるんだよ。その違いがあるから一つのライフスタイルでも取り組み方は窯元それぞれ違うんだよね。ラーメンどんぶり一つにしても深山が作ったらこうなるよとか、作山が作ったらこうなるよっていう事が窯元の個性だよね。

司会:そうするとやはり、根本として窯元の個性はブレさせない必要がありますね。

●スタイルシリーズの釉薬の変化について話す深山の松崎社長

深山:それをあくまで製品で表現することもね。例えばこの作山窯さんのスタイルシリーズ(詳しくは「土ものの良さを大切にした食卓の軸となるうつわ」にて)だと、パッと見ピンク色でフチにだけ色が塗ってあるように見えるけど、器にこだわる人にとってはフチからのこの釉薬の流れ*3がやきものらしくて良いってなるわけですよね。

カネコ小兵:高井社長はこのために何年も試行錯誤してるんだよ。パッと見てこれなら誰でもできると思っちゃうけど、実際に取りくむと誰にもできないんだよね。この取り合わせはね。これ相当テストしてるでしょ?そこの部分って結構こだわりなんだよ。ここまでに至るまでの試作できっと何回も「これでは作山じゃない」って言ってると思う。

●作山窯スタイルシリーズ。カップのフチには窯変の雰囲気が、お皿の裏側にはあえて土の景色をいかして。

司会:実際に相当試作はされたんですか?

作山窯 高井社長(以下 作山窯):そんなにやってないけどね(笑)。「こうなったらこうなるやろう」とか「これとこれやったらこうなるやろう*4」ってくらい。

深山:あとこれですよね。高台に対して釉薬をここで止めてるっていう。これを他のメーカーさんが真似したらドボンと全部塗っちゃうんじゃないかな。この色合いと釉薬とのバランスは作山のものって感じだよね。

作山窯:そんな言うほど気にしてないよ。

カネコ小兵:天才だよ。それで出来る人は。僕はぎやまん陶でものすごくこだわってたもん。何回も失敗したよ。

司会:そうしたこだわりはイベントや展示会でも伝わりづらい気がしますが、伝える方法で意識してることはあるんですか?

作山窯:基本的には無いよ。うちらの場合、全ての人に合わせたものづくりなんてできないから、自分たちの製品に何かを感じてくれる数少ないお客さんに対してちゃんとものづくりしないといけないと思ってる。その人が何を感じてくれるかだよね。

●作山窯の棚の上。カップに入っているのは試行錯誤した釉薬のテスト

司会:その感じてくれるお客さんと繋がっていく為に大切にしてる事は何ですか?

作山窯:我慢だな。

司会:気づいてくれるまで待つっていう?

作山窯:気づいてもらうための努力は必要だよ。当然ね。気づかせる方法を何か取らないといけないんだけど、気づいてくれなかったら自分たちのやりかたが悪いと思う事にしてる。その方法の使い方が悪いのか、そもそも技術的に製品が伝えたい事まで届いてないか。苦労話とか全然面白くないからね。だから敢えてすることじゃないし、押し売りする必要もない。

カネコ小兵:最近、やきもの業界ではリサイクルやSDGsの観点でリサイクル土*5が注目されてるけど、お客さんは「これリサイクルの土ですよ」ってだけ言われてそれを理由に買ってくれるんだろうか?まずその器にきちんと器としての魅力があって、その上でリサイクル土が使われているという事なら「いいね」って背中を押してくれる気はするけど、リサイクルをセールスポイントにするのは、リサイクルとしても違う気がするよ。食の道具として評価してもらいながら、リサイクルとしても認められなかったらダメだよ。

司会:そう認められるために一番大事なところは窯元の想いでしょうか?

カネコ小兵:想いはいるよね・・・。

司会:その上で、ちゃんと使いたい人が欲しい器になっているかどうかも?

深山:そこに結論が落ち着くのか?とも思うけど、そうですね。窯元の想いっていいながらも工場運営にはお金を稼がないといけないので、道具として使う人に喜んでもらうために生産工程をちょっと変えたり調整するところはあるね(笑)。2021年12月3日掲載)⇒第四回座談会「(第11話)窯元だから伝えられる?SDGs編(仮)」に続く・・・*次回12月17日掲載予定(毎週金曜掲載)


脚注:*1.美濃焼には現在も300社近くの窯元があるが、100名を超える窯元は一握り、大半は家族+αの規模。但しここで言う小規模とは単なる規模ではなく、一つ一つの器にかける手間も要素となる。最も量産が可能となる『全自動機械ロクロ成形』であれば一つの機械で一日に数千個の生産が可能だが、ポットなどをつくる『排泥鋳込(はいでいいこみ)』では一日多くても200個。一人当たりの生産数で20~30倍の差が出る。參窯の三つの窯元はいずれも機械式な製造を行っておらず、その生産量は小規模となるため「小規模なものづくり」という表現となった。*2.例えば素材において作山窯の場合は「陶器」を使用しており、深山は「磁器」を使用している、この二つの素材は土としての粘性や焼成温度が異なるため同時に作る事は出来ないため、深山では陶器による開発を行う事は出来ないし、作山窯ではその逆となる。 *3.一見するとフチに色が塗ってあるように見えるが、これは焼成による窯変(ようへん)で発生している現象。釉薬に含まれるガラス分などの溶けやすい原料は焼成時に液状になり重量に従い下に流れるが、同じく釉薬に含まれる鉄分の内の溶けにくい要素は流れることなくその場所に留まる。その為、器のフチはガラス質とピンク色の要素は下に流れ、残った鉄分の部分でフチが黒く見える。こうした焼成時に窯の中で起こる変化を『窯変(ようへん)』と呼ぶ。 *4.「釉薬の発色テスト」や「釉薬と土の配合テスト」の基本的な方法は、化学実験の様にそれぞれの重量などを少しずつ変え広範囲に検証してベストミックスを探すが、長年そのテストを行い経験則を得ると、目指すところの目算がつき検証範囲を狭める事ができる。高井社長の発言の背景にはこの経験則が基礎となっていると考えるため、その前の伊藤社長の発言につながる。 *5.陶磁器で行われるリサイクル土とは、製造済の食器を細かに砂状になるまで粉砕し生産に使用する粘土に含んだもの。製造済の食器は大別すると2種で「製品として販売されユーザーの方が破損などで不用途なった食器」と「製造段階で不良品となった食器」がある。前者によるリサイクルがポストコンシューマリサイクル、後者によるものはプレコンシューマリサイクル。


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