NEW(第四話)『見えるノウハウと見えないノウハウ』-第七回座談会 -原料高騰と価格改訂から想うこと

第七回座談会 「原料高騰と価格改訂から想うこと」(第三話)製品の価格を決めるものは何か?から続く


―(第四話)『見えるノウハウと見えないノウハウ』(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):排泥鋳込みは、それだけニーズがあるのに廃業が増えるのがおかしいよね。深山さんが「今のままだと、うちしか排泥鋳込み*1できなくなるよ」って伝えて、排泥鋳込みそのものに付加価値をつけて全体を上げるしかないよね。過去の排泥鋳込みの製品が安すぎたよね。うちが昔作っていた日本酒の徳利も振り返るとよくやってきたなと思う。当時はそれで良かったかもしれないけど今は無理。その他の生活用品は値上がりしてきたのに、いつまでの当時の価格のままだったら出来るわけないよ。現代に合うものにしないといけない。確かに低価格な輸入品が存在していて、それと価格で戦ってきたけど、状況は変わって、付加価値を上げて、儲かる仕組みを作らないと排泥鋳込みの存続は危ういですよね。

●排泥鋳込み工程。(左)石膏型に泥漿(泥状の粘土を流し込む。(左)乾燥した器を石膏型から取り出す作業。

深山 松崎社長(以降、深山):排泥鋳込みを行う窯元や外注の作り屋さん*2aがもう少し増えてくれればいいなと願います。いまは少なすぎて…。

カネコ小兵:今のままでは増えないと思うよ。現状だと、価格を変える事で注文が減ったり、その対応するのが面倒だからという理由で、とりあえず現状をキープして、続けられなくなったら廃業する*2bくらいの気持ちでしかやってないから。

深山:価格はOEM*3のような別注製品は製品に合わせて改訂し易いんですが、オリジナル製品の価格設定が難しいですね。うちの場合、一つのシリーズの中に圧力鋳込みのカップ&ソーサーやプレートと排泥鋳込みのポットが混在しているので、例えば圧力鋳込みで作った皿やマグカップは15%の価格改訂で十分だけど、排泥鋳込みのポットは手間がかかるので、本当は30%の価格改訂をしたい。でも、一つのシリーズの中で改訂率をばらつかせるのもどうかと思って躊躇してしまいます。

●深山のplueシリーズ。ポットは排泥鋳込み成形だが、その他のカップやプレートは圧力鋳込み成形。

カネコ小兵:気にせずにそれぞれの改訂率で値上げすればいいよ。今が良い機会じゃない?ガスも土も上がってるんだから。

作山窯 高井社長(以降、作山窯):うん、いいんじゃない?それで採用されなくなったら仕方が無いよ。今回はそれをやらないと意味ないと思うよ。一時的にお客さん減ってもいいんじゃないですか?新しいお客さんを作る努力をした方が良いよ。

深山:それだけの覚悟があったら確かに。

作山窯:採算が合わない価格でも維持するのは、お客さんのためのように聞こえるけど、最終的に出来なくなっちゃったら、お客さんの為にならなくなるから。

カネコ小兵:深山さんには排泥鋳込みの現状を変えてほしいんだよ。ものづくりの現場をしっかり認識したらポットの相場は5000円ですという位のイメージを作って欲しいね。

●排泥鋳込み成形の環境改善を訴える高井社長(作山窯・左)と伊藤社長(カネコ小兵・右)

深山:(笑)深山がうかうかしてるうちに小兵さんがやってください。

カネコ小兵:いまから設備を整える事になっちゃうから誰もやらないよ。やっぱりノウハウがあるかどうかは重要ですね。だから深山さんがやるしかないね(笑)

司会:ガバ鋳込みに限らず圧力鋳込みも一時期、外注さんが相次いで辞めた時に、「作り手がいないから自社でやる」っていうメーカーさんが増えた時があったのですが、なかなか定着しない印象があります。特にガバ鋳込みは技術的なノウハウの難しさもあるんでしょうね。

●排泥鋳込の製造現場。テーブルの上にも天井にも効率的な成形を行うためのノウハウが埋め込まれている。

深山:私もそうした工場を見たことがあります。確かに設備は整っているのですが、建屋全体の例えば水はけのような構造などが適切でないとか、生産以前の課題もあったりして、設備があれば良いというものでは無くて、そうした建屋内のレイアウト*4であったりとか作業を見ているだけでは分からない点あるので、鋳込み成形の技術だけあっても、なかなか産業としての効率的な運営までたどり着くのは大変だと思います。

カネコ小兵:そりゃ難しいよ。最初からうまく出来るわけがないよ。効率よくものづくりをするには、技術と言う見えるノウハウと建物のレイアウトみたいな見えないノウハウの両方が無いといけないから・・・相当なことだと思うよ。2023年1月20日掲載)⇒第七回座談会「(第五話」100円ショップの製品と何が違うの?)に続く・・・*次週は掲載をお休みします。次回は2月3日掲載予定(毎週金曜掲載)


脚注:*1.排泥(はいでい)鋳込みは、その名前の通り、石膏型から泥を排出して形づくる成形方法です。下図の①~④の段階を経て形づくる訳ですが、先ず①として器の形の空洞がある石膏の型になみなみと泥を注入します。そうしてしばらく置いておくと②の段階に移行します。第一話でもご説明しましたが、石膏型は吸水性があるため泥の中の水分を吸収します、その際に型に触れている部分から順番に固まりはじめ段々厚みがつきます。そうして必要な厚みになったら③として石膏型を反転して、まだ液体状の泥を排出します。この泥を排出する段階から『排泥鋳込み』と名付けられました。石膏型を反転した状態で保っていると器自体が硬化を始めます。そうして触れても変形しない程度に硬化したら④として石膏型を分解します。石膏型は元々分解できるような構造になっています。分解すると、その内側に器の形をして泥が硬化しているので取り出します。こうした経緯を経て排泥鋳込みで器が形づくられます。ちなみに排泥鋳込みの別名として「ガバ鋳込み」と『流し込み成形』という呼び名がありますが。ガバ鋳込みは泥を排出する際に型をガバッとひっくり返すことに由来し、流し込み成形は型の中に泥を流し込む姿に由来します。

●『排泥鋳込み手順図』①から④の手順で器を形作る。一つの型で一日5個くらい成形するが、石膏型は使うたびに水分を吸収するため一回目と五回目の成形では時間を調整して、結果的に同様の厚みとする。型と言いながらも全ての作業が手仕事で行われる。

*2ab.外注の作り屋さんとは、窯元からの依頼をうけて成形のみを行う業態。窯元から支給される粘土や石膏型を使用して、成形のみを行い窯元に渡すため、費用は基本的に作業工賃となる。鋳込み成形はその技術や設備の特殊さもあって外注の作り屋さんで行われる事も多い。そして、陶磁器産業も他の工芸的産業と同様に職人の高齢化が課題となっている。特に外注の作り屋さんは家庭規模で行っている所も多く、家族が跡を継ぐことを想定せず、自分の代で廃業しても良いと考えているケースも多い。そもそも外注の作り屋さんの多くは専属の窯元から依頼を受けて成形しているので、繋がりも深く強く主張できない事もあり、かつ年金も受けていたりするので、長年付き合ってきた窯元と値上げ交渉をするよりは、体が動くまでは成形を行って、限界になったら、そのまま廃業をしてしまう。
*3.(第三話脚注でも説明していますが、改めて)OEM生産とはoriginal equipment manufacturerの頭文字からなる略語で、他社ブランドから生産の委託をを受けた製品の製造をしめす。それと対をなすのがオリジナル製品生産。こちらはその名の通り自社ブランドの製品製造を示す。かつての美濃焼生産地は大半がOEM生産であった。その窯元への依頼窓口となるのが産地問屋。国内外の様々なブランドから製品開発の依頼を受けた産地問屋がその特性に合わせて美濃に在る窯元の内、相性の良い窯元に生産を依頼した。当時の窯元は製造専門であったため自ら販売活動を行う機能が無く、産地問屋からの依頼が無ければ仕事が無かったため、結果としてOEM生産が主体となった。ただ、それは下請け的な製造のため、価格決定権は無く、原価積み上げの単価設定が精一杯であり、製品によっては産地問屋より価格を指定され、その価格でなければ仕事を受けられないケースもあった。それでも、80年代までの輸出が盛んな時期やその後のバブル期など消費が活発な時代はOEM生産であっても注文数が数万個単位と大きかったため生産効率を求める事で窯元の経営は可能であった。しかしバブル崩壊後から現在まで消費は長く低迷し、かつライフスタイルも多様化すると、大量生産による同じ製品をたくさん作る事は適切でなくなり、更には日本人の賃金も向上し低価格な製品が海外で生産されるようになると、美濃焼の産地問屋は中国を中心とした海外から仕入れを始め美濃焼窯元への発注が滞った時期もある。そうした事から1990年後半頃よりオリジナル製品開発を開始する窯元が増加しました。
*4.鋳込み成形で器を形作るだけであれば、泥と石膏型があれば可能です。しかし、産業として安定した品質で効率を担保して継続的に生産を行うためには、それが可能な環境が必要となります。その環境とは、【泥を練るためのタンク】や【泡を抜くための脱泡機】、【排泥した泥を循環させるための”フネ”と呼んでいる排泥台】などの設備的な面はもちろん、それら【設備を効率的なレイアウトで配置が可能な建屋】、【そのレイアウトを行った際に使用可能な排水構造】など建物的な面も含まれます。こうした設備やレイアウト、建物にも美濃焼が脈々と”やきもの”を作り続けた事で蓄積されたノウハウが根付いています。こうした目に見えない。正確に言えば見えてはいるが、ノウハウとしては目に入っていないものが、産業に潜む見えないノウハウと考えます。

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