(第三話)『製品の価格を決定するものは何?』-第七回座談会 -原料高騰と価格改訂から想うこと

第七回座談会 「原料高騰と価格改訂から想うこと」(第二話)人件費はコストか?から続く


―(第三話)『製品の価格を決定するものは何?』(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

司会:今回の価格改訂は、諸原料の高騰が起因ですが、そもそも製品の価格はどういう方法で決定されていますか?きっとそれぞれで異なると思いますが。カネコ小兵さんではどうでしょうか?

●(左)徳利を生産していた頃のカネコ小兵。(右)ブランドとしての展開のきっかけとなった「ギヤマン陶」シリーズ

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):昔、徳利を作っていた時は【原価積み上げ方式】だったね。OEM生産*1aだから、いくらで出来るかという製造原価の積み上げだけ。でも、オリジナル製品*1bとしてぎやまん陶などを作り、それをブランドにとなると積上げ方式ではだめだと感じた。何より積上げ方式では開発費用が捻出できない。OEMは顧客が費用負担し、その指示で作るから開発費の負担が必要無かった。でもオリジナル製品ではそうはいかない。その為には、原価計算は当然だけど、加えて、“このお皿の顔(雰囲気)なら使い手はいくらくらいで買ってくれるんだろうか”を考えます。その為には市場を知る事が必要だけど、その上で、ある程度は感覚的にこの価格でこの品質なら買ってもらえるかなって最終価格を決めてきた。

司会:きっと経験に裏打ちされた感覚なんでしょうね。そうすると、この品質では価格に届いていないと感じる事もありますか?

●ぎやまん陶の多様なアイテム。一つ一つの価格決定は試行錯誤し、その存在価値から決定する。【ぎやまん陶についてはコチラから】

カネコ小兵:もちろんあるし、逆に、見た目の価格帯を手間が超えてしまってダメな事もあったね。自分で上代(最終価格)を決めるためには、あまた存在する食器を把握し比較して、その中でカネコ小兵はどこにいるのだろうと試行錯誤しました。そういう訳で、『原価積み上げ』に加え『使い手に共感される上代』とのバランスから価格を決めます。その当時、すでにブランドとして展開されていた深山さんや作山窯さんの価格をうらやましいなと思ってました(笑)。

司会:作山窯さんはいかがですか?

作山窯 高井社長(以降、作山窯):基本的には同じだと思う。開発した製品がいくらなら市場に適合するか?その価格が出来上がった製品に見合って、算出した原価にも合っていればよいし、合っていなければ開発をやめる。

●製品によっては一つ一つ手作りで行われる作山窯のカップの取っ手づくり。

司会:作山窯さんは土の種類も多く、水ゴテ*2aで作る器もあれば、たたら成形*2bのように完全に手作りで量産が難しい器もありますよね、これだけ生産の幅が広いと原価計算は難しくないですか?

●水ゴテ成形。回転している白い石膏型に黒い土をいれ木型のコテで押さえて延ばす。もう片方の手で筆を持ち水分を与えている。

作山窯:全ての製品を同じ方法でコスト計算したらだめですね。たたら成形ばかりだったら価格が合わなくなるしね。市場に適合した価格といっても、それにも幅があるので、ある程度はシリーズの中で調整して価格を決めます。

司会:全体で調整するような感じですかね。カップ単体だと合わないけど皿と合わせてカップ&ソーサーになれば良いといったような。多少合わなくても必要なアイテムは作らないといけないところもありますか?

●手作りの取っ手にやきものらしい風合いの水色の釉薬。Styleシリーズのマグカップブルー【Styleシリーズについてはコチラから】

作山窯:それでも、本当に合わない製品はやめますけどすね(笑)。

司会:今回の価格改訂にはその幅は影響されましたか?

作山窯:今回の原料などの原価のアップをそのまま計算したら今までに2倍の価格になってしまう製品もありました。そんな価格なってしまっては購入頂けないので廃盤にした製品もかなりあります。

司会:価格改訂だけでは済まない訳ですね…。廃盤は小兵さんもありましたか?

カネコ小兵:今回の価格改訂がきっかけで廃盤にしたものは少ないけど、廃盤の検討は定期的に必要ですね。特に排泥鋳込み*2の製品については、作りづらいものを一生懸命やったところでだめだよね。手間だけかかって単価がとれない製品が結構あるから・・・。

司会:深山の場合はどうですか?

●窯組作業。白い長方形の板が「棚板」。この上にいくつ器がのるかが単価に影響する。板の角に置かれている白い支え(ツクと呼ぶ)で棚板を積み重ねる。

深山 松崎社長(以降、深山):価格決定の基礎には積み上げがあります。深山では窯に入れる際に組む台車に使う棚板のサイズが35×45cmですが、この上にいくつ置けるか?がベースになります。時代に応じて棚板一枚当たりの金額は変化するわけですが、それをベースとします。その上で、製品の高さや釉薬価格、不良率を加味して価格を決定します。

●ガバ鋳込みで作られるポット『M-3』。20年以上作りつづける定番ティーポット

深山:うちの問題は排泥鋳込みですね。排泥鋳込みで多く作られるのはポットですが、昔は店頭価格で2,500円くらいだったのですが、現在は3,000円後半から4,000円くらいが深山の平均になっています。ただ市場ではまだ2,000円を下回るようなポットも存在しています。でも実際にガバ鋳込みはご存じの通りとても手間がかかる工程のため、そうした価格帯ではやっていけないと廃業するところも増えてか、いまの深山には生産量を大幅に超える注文が集中して大混雑状態になっています。市場価格は大切ですが、そこに拘泥すると生産環境自体が崩壊してしまうのかなと心配です。2023年1月13日掲載)⇒第七回座談会「(第四話)見えるノウハウと見えないノウハウ」に続く・・・*1月20日掲載予定(毎週金曜掲載)


脚注:*1ab.OEM生産とはoriginal equipment manufacturerの頭文字からなる略語で、他社ブランドから生産の委託をを受けた製品の製造をしめす。それと対をなすのがオリジナル製品生産。こちらはその名の通り自社ブランドの製品製造を示す。かつての美濃焼生産地は大半がOEM生産であった。その窯元への依頼窓口となるのが産地問屋。国内外の様々なブランドから製品開発の依頼を受けた産地問屋がその特性に合わせて美濃に在る窯元の内、相性の良い窯元に生産を依頼した。当時の窯元は製造専門であったため自ら販売活動を行う機能が無く、産地問屋からの依頼が無ければ仕事が無かったため、結果としてOEM生産が主体となった。ただ、それは下請け的な製造のため、価格決定権は無く、原価積み上げの単価設定が精一杯であり、製品によっては産地問屋より価格を指定され、その価格でなければ仕事を受けられないケースもあった。それでも、80年代までの輸出が盛んな時期やその後のバブル期など消費が活発な時代はOEM生産であっても注文数が数万個単位と大きかったため生産効率を求める事で窯元の経営は可能であった。しかしバブル崩壊後から現在まで消費は長く低迷し、かつライフスタイルも多様化すると、大量生産による同じ製品をたくさん作る事は適切でなくなり、更には日本人の賃金も向上し低価格な製品が海外で生産されるようになると、美濃焼の産地問屋は中国を中心とした海外から仕入れを始め美濃焼窯元への発注が滞った時期もある。そうした事から1990年後半頃よりオリジナル製品開発を開始する窯元が増加しました。
*2abc.「水ゴテ」「たたら成形」「排泥鋳込」のいずれもうつわを形づくる成形方法の一種。【水ゴテ】は明治時代の初期量産期に普及したもので、器外側の空洞がある石膏型に粘り気のある粘土(泥状ではない)を貼り付け回転させて、その上から器内側の形になっているコテで押さえつける事で成形する方法。コテで抑える際に粘土の表面を整えるために水を含ませながら行うため水ゴテと呼ばれる。粘土をペタンと型に貼り付け、コテでキューっと伸ばすことから愛称として「ペタンキュー」とも呼ばれる。【たたら成形】は水分が少なく粘り気のある粘土を板状に切り分けて石膏型や木型にかぶせて裏面を抑えて成形する方法。型に押し付けるため「押し型成形」とも呼ばれる。【排泥鋳込み】は第四話でご説明予定です。成形方法は機械化されたものから手作りのものまで幅広い。生産量の多い順では「機械ロクロ」「自動機」>「圧力鋳込」>「水ゴテ(ペタンキュー)」>「排泥鋳込(ガバ鋳込み、流し込み成形)」>「たたら成形」となります。機械ロクロや自動機は一日数千~数万の生産が可能な事に対して、「排泥鋳込」や「たたら成形(押し型成形)」では一日数十個の場合もある。同じ産業ながら100~1000倍の生産量の違いがあり、この幅広さも美濃焼の産地の特徴です。

●水ゴテ成形:左手で押さえているものが【コテ】。白くドーナッツ状に見える部分が石膏型であり、その中に黒い粘土を入れ回転させながらコテで押さえる事で、石膏型とコテの間に粘土が広がった器の形となる。この際に滑らかに広がるように右手で持った筆で粘土に水分を与えて広がりを促進し、且つ表面を滑らかにする。


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