(第二話)『日進木工の70年間と事業継承』 他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐

『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐』(第一話)高山の家具産業の始まりと今から続く


(第二話)『日進木工の70年間と事業継承』(語り手:株式会社日進木工 北村社長 聞き手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):1946年創業ですか80年弱前ですね。少し前に日進木工さんの歴史を紹介する本を拝見したんですが・・・

日進木工 北村社長(以降、日進木工):ええ、70年史というのがありまして…。日進木工は今から6年前の2016年に70周年迎えたんです。その時に歩みを残すという意味でも制作しました。もともと日進木工は初代となる曾祖父喜兵衛と二代目の祖父繁が一緒に創業しました。それから70周年当時までの軌跡をご紹介しています。ちなみに僕はこの後2019年に四代目となりました。

70周年を記念したウェブサイトも。想いが綴られています。

深山 松崎社長(以降、深山):ハードカバーなんですね。一体何ページあるんですか?歴史を感じますね。これだけの内容となると外部に委託して編集したんですか?それとも社内で編集したんですか?

作山窯 高井社長(以降、作山窯):凄いですね。よく当時の歴史的な資料や内容が残ってましたね。

日進木工:基本的には社内で編纂しました。この機会にまとめておかないと、という思いもあって、社長三代の軌跡を綴った社史的な「三代記」と七十年の間にあった人と家具のドラマを綴った「人とものづくり」を作りましたね。うちのじいちゃんが写真好きだったみたいで、昔の写真が結構残ってるんです。その写真を使いました。

●70年史を手に語らう座談会。左より作山窯 高井社長、司会担当、カネコ小兵 伊藤社長、日進木工 北村社長、深山 松崎社長。

カネコ小兵:社長を継ぐ時に何のきっかけがあったんですか?そういえば、今はおいくつになられたんですか?

日進木工:今年43才で、社長になって三年が経ちました。きっかけは、先ほどの70周年のいろいろな事業が終わり、父(現会長)も70歳になっていまして、そうした点は大きいのですが、俯瞰すると、父は当時、高山商工会議所の会頭でもあった事もあって業界全体の事を考えると「事業承継」は課題であり、自社も行うべきだという考えもあったと思いますし、同じくして地域内の他家具メーカーさんも代替わりが始まってきていました。なので、そういうタイミングだったのかなと思いますね。

司会:産地として誕生して100年で、近しい時期に創業していることもあるので、他家具メーカーさんも同じようなタイミングでの事業継承となるんでしょうか?

日進木工:そうですね、それはあると思います。

司会:少し遡るのですが、ご自身はいつ将来は家業を継ごうと決意したのでしょうか?私は前職で2000年前後の頃に家具メーカーに勤めていたのですが、当時は家庭使いの家具は、新築にしてもマンションにしても作り付けが増えてきて、特にタンスなどの箱もの*1が売れなくて、イメージとして家具って売るの大変だなって思ってました。これはあくまで私のイメージで実情とは異なるかもしれませんが、北村社長はどんな思いで継がれることを決意されたんですか?

●ウェブサイトで代表としての想いを伝える北村社長。この想いに至る道のりをお話頂きました。

 日進木工:決意したのは大学生の時ですね。それこそ柴田さん(司会)が家具メーカーに勤められていた頃です。当時は、京都の大学に行っていたのですが建築やデザインに興味があってバックパッカーとしてヨーロッパでル・コルビジェ*2やガウディ*3などの建築を見て回ったりしていました。その過程で「デザインって面白いな」と思うようになり、空間を彩る家具にはまだまだ余地があるんじゃないかと考え、その観点で見たら家業も面白いんじゃないかと思い、父に相談し日進木工でお世話になっている東京のデザイン事務所で2年間修業させて頂きました。そこがすごく貴重な体験になりましたね。ミラノサローネ*4などの国内外のイベントに同行させて頂き「家具のビジネスにこういう世界があるんだ」とますます興味を持ちました。その後、六本木に岐阜県のアンテナショップを作る事となり、その担当を任されました。小売りの経験もないし、岐阜県の産品*5が何か?すら分かっていない時でしたが、とにかくやってみようと担当しました。ちょっと変わっていたのが、その頃の他県のアンテナショップでは食品やお酒など消費財の販売が主流でしたが、岐阜県のアンテナショップは暮らしをベースにしたライフスタイル提案型のショップにしたいという意図で依頼されたんです。

●2007年ころのインテリアライフスタイル展の深山ブースで応対する松崎社長。 この場所に当時の北村社長も訪れていた。

 日進木工:そのため、そのころ東京ビックサイトで開催されていたインテリアライフスタイル展やギフトショーに足を運んでいて、そこではじめて深山さんの器を見て「キレイだなー」と思いお声がけをさせて頂いて取り扱いさせてもらった事がありますね。もうかれこれ20年くらい前ですかね。

深山:ラビロス六本木のオリベスタイルですよね。私たちも販売会社のミヤマプランニングを立ち上げてすぐの頃だったので、東京で製品をご覧頂ける場所としてとてもありがたかった記憶があります。

日進木工:見ていただく場所は大切ですよね。オリベスタイルは岐阜県のあのビルから撤退に伴って結局四年間ほどで閉店したんですが、その経験もあって日進木工としても見せる場所が必要と考え、その後、五反田の東京デザインセンター1階にショールームを立ち上げました。オリベスタイルからショールーム開設後まで私はかれこれ7年程度東京にいて、その後、高山に戻ってきて今につながりますね。2022年7月8日掲載)⇒第六回座談会「③家具流通の変化と日進木工の足跡」に続く・・・*7月15日掲載予定(毎週金曜掲載)


●脚注:*1. 【箱もの家具】は代表的なものとしてタンス、ワードローブ、食器棚、本棚、ドレッサーなどがあげられる、これらは、かつて婚礼家具として結婚の際にまとめて揃えることが必要な道具でもあったため家具産業としては大きな需要であった。有名なものでは愛知県名古屋地区でステータスとして家具を一杯に積んで紅白の幕をつけ輸送する嫁入りトラックが見受けられた。しかし、一戸建てにしてもマンションにしても収納が元からついた状態で建てられるようになり、その需要は急激に減少した。日進木工で作られる椅子やテーブルは【脚もの家具】と呼ばれる。*2.1887年にスイスで生まれ、パリで活躍した近代建築の代表的な建築家。日本では国立西洋美術館を建築。代表作となるサヴォア邸に象徴されるように、現代では一般的となった建築の基準となる「近代建築の五原則」を実証した。家具のデザインも手掛けており現在も愛される「LCシリーズ」でもその思想は表現されている。 *3.スペインの世界遺産「サグラダ ファミリア」など7つの世界遺産を生み出した偉大な建築家。伝統的な装飾を活用しながらも既成の枠にとらわれない独創的な建築物は現代にいたるまで訪れる人々を魅了する。 *4.ミラノ国際家具見本市の通称。毎年4月に開催され、その規模は世界最大。見本市とは言え、単に製品を陳列するわけでなく、イタリアをはじめて世界各国の名だたる家具メーカーが自らのメッセージを込めた創造的なブースで出展しており、世界的なデザインのトレンドを決定づけるほどの影響力を持ち、同時にこの見本市で評価を得たデザイナーは一躍注目を受ける。この時期にはミラノ市内でも「フォーリサローネ」と呼ばれる自主的な展示も多く行われ、この期間はミラノ市内全域が世界でも最大規模のデザインの祭典の会場となる。 *5.岐阜県には伝統的なものづくりに根付いた産業が多く存在する。日進木工のある高山地区では木工による家具や春慶塗。參窯のある多治見・土岐・瑞浪地区では陶磁器(美濃焼)。美濃地区では和紙(美濃和紙)。関地区では金属(刃物)。他にも日本一の生産量を誇る提灯(岐阜地区)や木枡(大垣地区)など。岐阜県のものづくりは、こうした工芸的な技術をベースとする事で、現代と調和する道具でありながら、その地域的歴史的背景を内包し行われる。


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參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/

參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/


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