(第二話)『人件費はコストか?』-第七回座談会 -原料高騰と価格改訂から想うこと

第七回座談会 「原料高騰と価格改訂から想うこと」(第一話)陶磁器産業の原料とエネルギーの現状から続く


―(第二話)『人件費はコストか?』(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

司会:燃料費や原料の高騰は第六回座談会でお伺いした高山市の家具メーカー日進木工さんからお話のあったウッドショックの話と似ていますね。コロナ後の景気対策としてアメリカで行われた新築への補助金で急激に住宅着工数が増加したり、中国での経済発展に伴う木材使用量の増加で世界的な木材不足といった、どうしようもない要因。改めてですが、今回の価格改訂のきっかけは「原料」と「燃料」、この二つの高騰ですか?それとも他にも要因ありますか?

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):型に使う石膏*1など関連する資材の値段も上がるけど、重要なのは人件費をどう設定するか?という事だと思ってます。

●三つに分かれた白い塊が石膏型。吸水性のある石膏で型を作る事で、器を形づくる。

 司会:それは10月1日から岐阜県の最低賃金が上がるから。ということですか?

カネコ小兵:最低賃金だと社員の事だけになっちゃうからね。言いたいのは社員の事だけじゃなくて、もう少し広い意味で外注の職人*2さんも含めて考えています。外注の職人さんの場合は工賃がイコール人件費だから・・・。職人の皆さんは、なかなか「単価を上げて欲しい」と言わない。もちろん石膏など資材の価格が上がったらその分の値上げはあったりするけど、それはあくまで経費分のアップだけだから、職人さんの手取りが増える訳ではない。つまり職人さんには昇給のような収入の増加が無いんです。だから、人件費の時には社員の話だけではなくて、もちろんそれも大事だけど、外注の職人さんについても考えないと継続的な仕事や後継者の育成なんて進まないんじゃないかと心配してます。

 司会:人件費についてはコストアップと考えるのではなくて、将来の人材の確保のための投資ととらえる訳ですか。しかし、結果としてはコストアップとなりますが、それでも今こそ行おうという事ですね。

●窯元から業務を委託され作業を行うのが外注さん。最も関りが大きいのは成形を行う「作り外注」さん。画像は圧力鋳込みによる成形。

深山 松崎社長(以降、深山):経営者として行動しないといけないと考えます。せっかく想いを持ってやきもの業界に就職してくれた人が、結婚したり、家を建てたり、という事を実際にできるのかなと想像します。安く雇えたからそれで良いという訳にはいかないですね。

カネコ小兵:特に今回の燃料や諸物価の高騰の影響は、陶磁器業界に限っている訳ではなくて、日常の生活まで関わる全体の事です。その影響もある。小麦粉もマヨネーズもと日用品全体が高騰しているけど、その中では仮に給料が同じままでも実際に購入できる量は減少するので可処分所得が減ったように感じるよね。だから結果的に消費は落ち込むし、食器の購入までは予算を回せないってなっちゃう。その影響は微々たるものかもしれないけど給与や人件費はまわりまわって私たちへの注文量にも影響がある。まさに「情けは人の為ならず」で、きちんとお支払いする事が大切だと思います。

●原料のコスト増に纏わる想いを語る三窯の代表。左より、深山 松崎社長、作山窯 高井社長、カネコ小兵 伊藤社長。

 司会:物価高騰による影響なのか、そうしたニュースが報道されるようになってから弊社(深山)のネットショップの落ち込み大きかったです。皆さんはいかがですか?

カネコ小兵:全く同じくです。

深山:作山窯さんは直営店も展開されてますが、そちらはどうですか?

作山窯 高井社長:減ってますね。店舗での直販もネットショップでの販売も減少してます。そもそもですが食器を含めて生活用品全体が停滞していて「消費」を控えているといった印象がありますね。ニュースでは高級時計などの高いものはよく売れていると言われています。これは確かに物を買っていますが「消費」という意識ではなく、「投資」という意識なのかなと思ってます。より生活に身近な「消費」は明らかに停滞していますね。

司会:明らかに今回の価格高騰は、産業だけでなく日常生活にも影を落としています。その中で、人件費や給与、外注さんへの支払いなどの「人にかける費用」はその両方に関わるコストなので、原料や資材などの高騰とは別の視点で考える必要がありますね。2022年12月23日掲載)⇒第七回座談会「(第三話)価格の決め方」に続く・・・*2022年の掲載は今回までとなります。次回は2023年1月13日掲載予定(毎週金曜掲載)です。本年も參窯の活動を支えて頂きありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。


脚注:*1.石膏はそれ自体が産出される天然鉱物です。陶磁器製造では成形(形を作る作業)のための型に使用される素材で、他には骨折の際のギプスなどにも使用されます。その特徴としては、「取扱いの安全性」と「成形の自由度」、そして「吸水性の保持」があります。粉上の石膏は水と混合すると液体状となり、時間と共に硬化がはじまります。水分量にもよりますが10分程度で硬化する為、効率的な作業が可能です。製品の原型の周りに囲いを作り、その中に液体状の石膏を流し込み硬化させると原型の形に添った石膏の塊が出来上がります。この塊を『石膏型』と呼びます(一枚目の画像参照)。石膏型を乾燥させると内側の水分が抜けて、その水分が抜けた部分は小さな(顕微鏡レベルの)穴になり、その穴が沢山ある多孔質(たこうしつ)な状態になります。この小さな穴が吸水力を生みます。成形のため製品の形の空洞のある型の中に泥を流し込むと、多孔質な小さな穴が泥の中の水分だけを吸い取ります。水分が抜かれた泥は製品の形の空洞の中で土のみになって製品を形作ります。その後、型を分割して土を取り出すと製品が形づくられます。これが石膏型を使用した陶磁器の成形方法です。(石膏型による鋳込み成形については下図参照)

●鋳込み成形以外にも、機械ロクロ成形、自動成型機、水ゴテ(ペタンキュー)など様々な成形方法で石膏の型は使われる。

*2.外注(がいちゅう)の職人さんとは、その名の通り業務を依頼する社外の職人さん。社内で製造する事は内製(ないせい)と表現する。陶磁器産業はその工程の多様性や専門性から分業制が浸透している。分業の段階も多層で、一つ目は【商流の分業】として、問屋と窯元の存在がある。窯元が製造を行い、問屋が物流を行うという分業です。二つ目は【製品開発の分業】。陶磁器製品は原料として「土」と「釉薬」、道具として「石膏型」や「転写」などを使って生み出されます。しかしそれぞれに専門性が必要な原料であり道具であるため窯元の知識だけでは製品を生み出す事は難しく、石膏型は型屋さんに、土は原料屋さんに、釉薬は釉薬屋さんに、転写は転写屋さんに相談を行い開発します。窯元が目指す製品を作るため、釉薬にはどんな調合が必要か?型はどんな構造にするか?など専門家と分業する事で製品が開発されます。三つ目が【製造の分業】です。製造は成形→素焼き→絵付→施釉→焼成という工程で行われますが、そのうち最初の形づくる工程「成形(せいけい)」を専門で行う「作り屋さん」が存在します。土はある程度の量を継続して作り続けないと安定した状況を保つことが難しいですが、小規模な窯元ではそれほどの量の土は不要なため、必要量と生産量の間に不均衡が生じます。それを解消するのが作り屋さんの存在です。作り屋さんは複数の窯元から依頼を受け成形を行う事で生産量と品質の両面から安定供給を可能とします。生産量によっては無理やり内製せず、専門家である作り屋さんに依頼することで安定供給を保つのが製造の分業の役割です。

〉〉〉「三窯行えば、必ず我が師あり」一覧に戻る

■過去の座談会記事一覧

〉〉〉第六回座談会『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)-』アーカイブはこちらから

〉〉〉第五回座談会『野口さんとふりかえる2021年』アーカイブはこちらから

〉〉〉第四回座談会『美濃焼について思うこと』アーカイブはこちらから

〉〉〉第三回座談会『作り手の大切な器、我が家の食卓』アーカイブはこちらから

〉〉〉第二回座談会『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』アーカイブはこちらから

〉〉〉第一回座談会『參窯のはじまり』アーカイブはこちらから


〉〉〉■ご意見、ご感想、お問合せはコチラから


・・・・・各窯元ウェブサイト・・・・・

參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/

參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/

參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/


・・・・・參窯ミノウエバナシ contents・・・・・

●ブログ「三窯行えば、必ず我が師あり」

●ブログ「うつわ、やきもの相談所」

●作り手に聞いてみたかったことがある》》》 ご質問はコチラへ

●オンラインストア「outstanding products store」

 ●イベント案内「歓迎/出張ミノウエバナシ」

産地でのファクトリーツアーや消費地でのワークショップなど、リアルなイベントのご紹介です。

●參窯(さんかま)へのお問い合わせは 》》》 こちらへ



 

関連記事

PAGE TOP