(第四話)『新型コロナとウッドショック』 他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐

『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐』(第三話)家具流通の変化と日進木工の足跡から続く


(第四話)『新型コロナとウッドショック』(語り手:株式会社日進木工 北村社長 聞き手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

司会:先ほども少しお話に出ましたが新型コロナ*1が家具業界に与えた影響はいかがでした?食器の場合ですと、レストランなどの飲食店が営業できない事や、結婚式などイベントが開催される引出物のような贈りものの需要が停滞した影響は大きくて、おうち時間などでご家庭使いやネットショップでの活用が増えたとはいえ多大な影響がありましたが・・・

日進木工 北村社長(以降、日進木工):2020年の4月からの緊急事態宣言の頃が最初の大きな波でしたね。あの時はかなり業績は落ち込みました。でもその後、給付金が支給された頃からⅤ字回復して後半は落ち着いていましたね。2021年も前半は停滞しましたが後半から持ち直し前年対で増加しましたし、今年1月からは絶好調でした。ですが、4月後半から失速してきたイメージがあります。需要がレジャーに置き換わった感がありますね。

●日進木工の北村社長(右)とカネコ小兵の伊藤社長(左)。 旧来より親交のあるお二人の掛け合いから話しは広がりをみせます。

 カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):外出できない間は家の中で楽しもうという気持ちだったけど、そろそろ外に出ようと考えが変わってきた感じはありますね。

日進木工:そうですね。関市のキッチンメーカーの方からも伺ったんですがコロナ渦ではキッチン用品はものすごく好調だったみたいです。家具やキッチン用品、食器と旅行やレジャー産業は需要としては反比例する部分がありそうですね。これから先が読みづらいです。ただ、このコロナ渦で家の中を改めて考えた時に「家具って大事だよね」「インテリア大事だよね」ってことに気づかれた方も多いんじゃないかなと思うので、もちろん大変な時期でしたが、トータルで見れば良いチャンスでもあったのかなと思っています。

●日進木工の家具作りの想い「人が心地よくすごせる空間を作りたい」。家庭での時間を見つめなおしたコロナ禍だからこそ再認識された家具の大切さ。

カネコ小兵:ウッドショック*2の影響はどう?

日進木工:その方が影響が大きいです。後ほど工場をご覧頂きますが、日進木工では木材は仕入れてから1年~1年半自然乾燥させるので家具になるまで1年半以上かかるんです。そのためウッドショックの影響はこれから生じてくるんです。年単位で購入しているので、今仕入れている材料やこれから使う材料がコストアップしてくる。木材のストックもあるので、とりあえずは少し購入量を減らして調整しています。ただコストアップは木材だけでなく塗料など全ての原材料が上がってます。これだけ原材料が上がっているので、値上げもせざるを得ない。すごいタイミングです本当に。

●工場の材木置き場。丸太で仕入れた材料は製品に応じた寸法にカットされ一年半をかけて乾燥させる。

●日進木工の四つの技術の内、二つが材料に関わる「選定」と「乾燥」。大本を大切にするものづくりの想いが表れる。

司会:コストアップに伴った価格改定の予定はあるんですか?

日進木工:7月から価格改訂をする予定です。他社さんは既に改訂しているところがほとんどで、うちが一番遅いくらいです。原料高騰はいずれピークはきますが、元に戻る訳では無くて高止まりはするだろうなと思っています。業界全体の継続的な課題ですね。

深山 松崎社長(以降、深山):ウクライナやロシアの影響はいかがですか?

日進木工:材料はアメリカからの仕入れがほとんどで、ヨーロッパからは少ないので、材料の確保については大丈夫ですが、船積みのコンテナが動かないとか、コンテナ費用が高騰してるとか、輸送への影響は大きいです。陶磁器も焼き物だから燃料がすごく上がってるんじゃないですか?

●陶磁器産業での窯の多くはガスを使用して焼成する。そのため石油やガスなど焼成燃料の高騰は多大な影響を与える。

 カネコ小兵:もの凄いですよ。ただ燃料代はどの窯元も一律で上がるので、コストの内の燃料費の割合が高い窯元*3、つまりリーズナブルな製品を製造する大量生産のトンネル窯の窯元は特に困ってますね。加えて燃料以外にも、型の制作に必要な石膏や、釉薬に使用する顔料など、製造にかかわるほとんど全ての材料が値上がりしてるから。カネコ小兵は5月に価格改訂するし、作山窯も深山も6月までに改訂します。

日進木工:弊社も參窯の皆さんも共通しているなと思うのは、安いものを作っても仕方がないから、付加価値を生み出して高いなりにも買って頂くためにどうするかを考えている事だと思うんです。そうした観点から私も社長になってからいくつか行った事があるんです・・・。2022年7月22日掲載)⇒第六回座談会「⑤家具の技術で樽を作る」に続く・・・*7月29日掲載予定(毎週金曜掲載)


●脚注:*1. 2019年末に発生し現在2022年7月までに世界累計で5億人以上が感染したウィルス性の感染症。その感染力の強さと新型ゆえの治療薬やワクチンの未整備もあり、ロックダウンや緊急事態宣言や休業要請など行動を制限する対策が中心となり経済活動にも大きな影響を与えた。外出を控え家庭内をすごす時間も増えたことから【おうち時間】といった表現で家庭内の暮らしの充実を図る傾向も生まれ、記事の後述にもあるよう食器のみならず家具やキッチンツールなど自家需要は増加し困窮した経済活動を一部支えた。しかし、食器は従来から「家庭使い」とともに「飲食店の業務用使用」「引き出物などの贈りもの」の三つの販路の需要が大きく、その内二つが壊滅的な状態となった事となる。窯元によっては業務用食器の専門メーカーや、その製品を専門的に扱う業務用問屋も存在していたため、そうした企業においては影響は更に甚大であり、2022年7月現在まで一貫して回復の傾向はみられない。*2.木材の世界的な需要増加に供給がおいつかず生じている木材価格の高騰をあらわす言葉。1970年代に発生した石油高騰の「オイルショック」になぞられて名付けられた。2021年初め頃からその傾向がみられ2022年7月現在もピークは過ぎた感があっても価格は高止まりしている。発生の要因は、アメリカでの新型コロナに対する経済対策により新築住宅の建設やリフォームが活性化した事や、中国の経済発展に伴う材料としての木材需要の増加などがうたわれる。 *3.食器には100円ショップで売られているものから百貨店やギャラリーなどで販売される高額なものまで幅広く存在する。その理由は使用している素材の希少性や生産工程の難易度によるため価格差には当然の理由があるが、それらは最終的には焼く事で器として完成する。この【焼く】という工程だけはどの窯元でも必ず必要であり、それに使用するガスや電気など燃料の供給価格には窯元による差はほとんど無い。それゆえに低価格の製品ほどこれら燃料代の占める割合は大きく経営への圧迫も強く、価格の維持がむつかしくなり価格改訂の必要性が高まる。低価格な製品も必要な存在であることは理解をしながらも、作り手としてはそうした環境の変化に耐えられる価格とそれに見合った製品製造を考える必要性もある。


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