『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐』(第七話)飛騨の家具を受け継ぎ繋げる。から続く
―(第八話)『ものづくりの規模と幅』(語り手:株式会社日進木工 北村社長 聞き手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)
深山 松崎社長(以降、深山):スタッフの皆さんは「飛騨の家具」や「匠の想い」を意識されているんですか?
日進木工 北村社長(以降、日進木工):今、日進木工の全社員は105名くらいで、工場内の製造スタッフが85人くらいです。上手く伝わっているかどうかは分かりませんが、浸透するよう努めています。
カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):かつては「働け働け、残業しろ残業しろ」ってとにかく売上至上主義だったけど、これからは、売上はもちろん大事だけど、それ以上にきちんと利益を確保できるかが大事ですね。生産数を増やすわけでは無いが、生産性を落とすわけでも無く、価値を上げて、利益を確保して、残業もそんなにしないで、ものづくりの誇りをもって一生懸命作り続ける。そういうことが大切じゃないかな。
日進木工:おっしゃる通りです。今は量を増やす時代ではないと思っています。きちんと作った良いものをちゃんと適正価格で販売できるのが一番いいですね。
深山:唐突ですがイケアとかニトリをどう思われますか?
日進木工:難しいですね(笑)。家具メーカーとしては寂しくもある。でも消費者としてそこに行くと「これ欲しい」と思う事もあります。そして、買ってきて家に戻ると反省してしまう自分がいますね(笑)。
カネコ小兵:自社の椅子とニトリとかの椅子と比べた時に「価格は差があるけど、この部分はやっぱりうちの方が良い」というところを見つける事が大切だと思います。デザインや座り心地や素材など価格とは異なる側面で良いところを探せば、それは結果として自社の特徴が浮かび上がりますから。
日進木工:ダイニングの製品、特に【椅子】は作るのが一番難しいと思っているんです。ニトリやイケアに行くとソファーやベッドや生活雑貨は良いなと思うことはありますが、椅子やテーブルだけは…これは自慢になりますが椅子に関しては、まだそのレベルまでは届かないと思っています。いつまで安心してられるかわからないけど、今のところはまだまだアドバンテージがありますね。
カネコ小兵:そうですね。うちのリンカシリーズも近くの窯元で真似て作られて*1、量販店で安く売られている。でも、やっぱり使ってみれば、差がある事が分かってもらえると思います。だから大切なのは、カネコ小兵の器が好きな人とどれだけ繋がり、集まってもらえるかという事と考えています。そうした暮らしをしたいと思う人とどれだけ繋がれるかですね。
司会:先日、家族が土岐の陶器祭り*2に行ったんですが、小学校4年生の長女がカネコ小兵さんのリンカのマグカップ買ってきましたよ。うちの娘はカネコ小兵さんとつながっていますね(笑)。
カネコ小兵:陶器祭りじゃなくてうちで買えばいいのに(笑)
深山:參窯の三社の製造量は、未だ300社以上ある美濃焼の窯元の中で決して多い部類ではないんです。ただ使い手とつながりたいという想いはすごく強いと考えます。家具の製造は陶磁器に比べて大規模だと思いますが、貴社のショールームやカフェの展開のように、貴社以外にも使い手とのつながりを求めるような流れはあるのでしょうか?
司会:割って入ってすいません、今お話にでていた參窯の器のご参考に、三つの窯元それぞれの特徴が表現された豆皿のギフトセット*3を作ったんです。同じ美濃焼のたかだか三社だけなのに、これだけ幅があるよっていう美濃焼の多様さを伝える事も目的にしてます。お使い頂いた方が違いも分かると思うので、よろしかったらお使い下さい。
日進木工:いいんですか?ありがとうございます。それぞれの窯元の特徴も分かって面白いですね。飛騨での使い手のつながりという点だと、まず若い子たちが独立する傾向が多くて、クラフトマンとして自身のブランドで活動している方が沢山いてクラフトマーケットなどで使い手に飛騨のものづくりを伝える繋がりを生み出してくれています。
深山:クラフトマンの存在とは、自身の感性でものづくりをする個人作家とマーケットの想いを重視する産業の狭間で両者の特性をバランスよく併せ持った立場みたいなことですか?
日進木工:そういう感じです。作り手としての想いを注ぎながらも作るものはしっかりとした道具なので、使い手ともつながり易く、きちんと食べていけている方も多くいます。他にも、木工連の参加企業でも『オークヴィレッジ』*4さんは工房として全国的に有名ですし、『キタニ』さんという北欧家具のライセンス製造に特化したメーカーもあります。それぞれ皆さん特徴を持って活動されていますね。飛騨の産地としての良いところはその多様性ですね。売上数十億の『飛騨産業』さんや『柏木工』さんがあり、売上10億前後のシラカワさんや弊社があり、もう少し規模の小さいところが複数あり、そして工房やクラフトマンなど個人単位での家具作りもあります。それぞれが、自身が行いたいものづくりに適した規模で幅広く特徴ある商品を作っているということです。高山の家具と美濃のやきものは、ものづくりの幅の広さという点も似ているかもしれませんね。
日進木工:では時間もちょうどいいので。そろそろ工場をご案内します。(2022年9月16日掲載)⇒第六回座談会「⑨ものづくりの現場から~素材について~」に続く・・・*9月30日掲載予定(毎週金曜掲載*9月23日は祝日のためお休みします。)
●脚注:*1. 美濃の地域には、未だ売れている製品のコピー製品を作れば良いと考える窯元も存在する。産業の歴史の中で企画力を身に着ける事をせず、問屋さんからの指示に頼りものづくりを行っている。作れと言う指示を出す方も問題だが、言われるがままに作ってしまう方にも問題がある。その根幹には地場産業に対する『誇り』の在り方が問われる。同様の話は第四回座談会(第8話)『コピーの元凶は窯元?問屋?』で語られている。 *2.正式名称は「土岐美濃焼祭り」例年ゴールデンウィークに開催されており、約30万人が来場する日本三大陶器祭りの一つ。会場は土岐ICから車で10分程度の卸団地で開催される。開催場所の通り主催は卸売り業の問屋さん。一部窯元や個人作家も出品している。多くの使い手とつながれる良い機会ではある反面、一部では過度な廉売も行われており課題も内包している。 *3.參窯それぞれの窯元の豆皿が一つずつ入るこのセットに想いは『三つの窯元の三つの豆皿に宿る、やきものの幅広さと面白さ』でご紹介しています。*4.高山の家具産業を担うご紹介の企業は次のURLからご覧頂けます。オークビレッジ(https://www.oakv.co.jp/ )、キタニ(https://www.kitani-g.co.jp/ )、飛騨産業(https://hidasangyo.com/ )、柏木工(https://www.kashiwa.gr.jp/ )、シラカワ(https://www.shirakawa.co.jp/ )
■過去の座談会記事一覧
〉〉〉第五回座談会『野口さんとふりかえる2021年』アーカイブはこちらから
〉〉〉第四回座談会『美濃焼について思うこと』アーカイブはこちらから
〉〉〉第三回座談会『作り手の大切な器、我が家の食卓』アーカイブはこちらから
〉〉〉第二回座談会『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』アーカイブはこちらから
・・・・・各窯元ウェブサイト・・・・・
參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/
參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/
參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/
・・・・・參窯ミノウエバナシ contents・・・・・
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