(第六話・最終回)『価格に託されたもの』-第七回座談会 -原料高騰と価格改訂から想うこと

第七回座談会 「原料高騰と価格改訂から想うこと」(第五話)100円ショップの製品と何が違うの?から続く


―(第六話・最終)『価格に託されたもの(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

深山:類似品だと、深山にはコワケという仕切り皿の製品があります。2004年にグッドデザイン賞を受賞して、現在でも非常に多くのご注文を頂いている製品ですが、大手家具量販店で完全にコピーしている製品があるという連絡が入って見に行くとそっくりなものが販売されていました。確かにとてもリーズナブルでうちの四分の一くらいの販売価格ですが、裏面に小さな亀裂が入ってたり、土が少し黒くザラザラして焼き締まっていない*1印象で、長く使う道具としての品質は決して良くなかったので、うちのお客さんは買わないだろうな。と思いました。

●深山のコワケシリーズ2004年にグッドデザイン賞を受賞し現在まで100万個以上の生産を行っているロングセラー。ホテルのビュッフェなどでも使用される。質の悪いコピー製品が大手家具量販店店頭に並んでいた。

カネコ小兵:人件費の安い国で作ることで成立する製品ですね。

深山:海外で作られるものには心配な点もあります。この家具量販店の様な“安くても悪いもの”はあまり意識する事は無いのですが、人件費の安い国にも良い製品を作るメーカー*2もあります。彼らはブランドとして展開しているので、そんな事はしないと思いますが、彼らがコピー製品を作ったら違いを説明できないなと思います。だからこそ、私たちのものづくりには製品の品質や素材だけではなく、誰がどこで、どんな想いで作っているかまで伝える事が大切なんだと思います。

カネコ小兵:農産物や食材はスーパーに行けば国内のものも、海外のものも並んでいる、その時、何で選ぶかって言うと、もちろん価格もあるけど、ちょっと高いくらいなら、何かで見た事がある地域のものを買ったりする。少し知っているだけでも納得感みたいなものがあるよね。

●左から「素焼きに釉薬を施し(深山)」→「裏面の余分な釉薬をはがし(カネコ小兵)」→「釉薬の表面をきれいにする(作山窯)」。一つ一つ特徴の異なるうつわが人の手と目をもって作り出されます。

深山:顔の見える生産者ですね。そういう存在であることが必要だと思うんです。深山ではアメリカのレストランブランドの食器もOEMで作っているのですが、先方も大規模な工場を持っていますが、大きすぎるが故に作れない製品*3があったそうです。そこが縁あって深山を知って見学に来て、ものづくりを理解する事で深山でしか作れない焼成温度幅の狭い難しい釉薬の製品を磁器で生産しています。BtoBなので理解しようという意識が強く働く事はあると思いますが、顔が見えるってこういう様な事だと思うんです。例えば『作山さんの器の色合いや質感は何故、作山さんじゃないとできないのか?』とか、『小兵さんのぎやまんを見た目だけ真似て他の窯が作ったら悲惨なものになってしまうだろう』といった。その窯元でしかできない事を伝えられたと思うんです。ほんとはリアルに見てもらいたいんですけど、動画でも良いですよね。

司会:価格には、単純に販売する価格という意味だけではなく、窯元の想いというかメッセージが込められていそうですね。そこが価格の差の理由になるんでしょうか。比較する事で分かり易くなりますね。

作山窯:でも、そもそも比較する必要がある?私たちと100円ショップや家具量販店はそもそもの土俵が違うから。こっちは良いものづくりの為に必要な価格で、向こうは売上を作るために適した価格。全然違うよね。

●価格が単なる販売するための数字ではなく、「地域」「歴史」「想い」「技術」「素材」「人」「未来」様々なものの象徴でもある。

司会:そうですね、わざわざ比較しなくても、私たち自身の事をきちんと伝えて、価格は単なる数字ではなくて、ある意味では、ものづくりに対する象徴です。みたいなところを伝えていきたいですね。

作山窯:そこまで伝わったら嬉しいですよね。                               

カネコ小兵:今回の諸原料の高騰はメーカー単位では抑えきれなくなったから上げざるを得ないんですが、単なる価格改訂ではなくて、我々もその価格に見合った価値を感じて頂けるように一生懸命考えて、一生懸命作ってますよっていうのを伝えていくことで、買ったときに満足感を得て頂けるようにしたい。昔と比べると軽自動車って大分高くなった。でも性能も良くなった、今ではそれが常識になってるよね。良いもの作って発信をしていけば常識は変わっていくと考えています。

●第七回座談会を終えて。左より深山の松崎社長、作山窯の高井社長、カネコ小兵の伊藤社長

司会:きっかけは原料や燃料が高騰し多くの窯元が価格改訂を迫られた状況の中で、改めて価格についてお話を伺うために開催した座談会でした。改めて価格が数字だけの存在ではなく窯元からのメッセージでもある。それだけでは当然伝わらないので、それがきっかけでよいので興味を持った方に、きちんと伝える方法を考えたい。そうした価格や製品の背景にあるものを伝えるのが参窯の役割だと再認識できる機会なりました。參窯では今後も一つの窯元だけでは伝える事ができない陶磁器産業の環境も発信していきたいと思います。今回はどうもありがとうございました。。・・・2023年2月17日掲載)⇒次週は『第七回座談会-原料高騰と価格改訂から想う事-」総集編をご案内予定です。・・・次回は2月24日掲載予定(毎週金曜掲載)


脚注:*1.コワケシリーズは圧力鋳込成形と言う方法で作られており、このコピー製品も同様の方法で作られていました。この方法で作ると裏面に”鋳込み口”と呼ばれる部分があります。これは石膏型に泥を注入して成形する際の注入口となる型に開いた小さな穴の跡ですが、この処理をきちんと行わなかったり、鋳込み易くするため水分量の多い泥にしてしまうとこの穴の跡に亀裂の様なヒビ割れが発生する事があります。また、やきものは単に焼けば良いという事ではなく、土が焼き締まる温度で焼く必要があります。この温度は土により多少前後ありますが一般的に1200℃~1350℃程度で、深山の白磁の場合は1350℃で焼いています。この温度まで達しないと土は焼き締まらず、少し大げさに表現すれば焼いてくっついているだけの状態で顕微鏡で見ると隙間が空いているような状態となります。そうするとその隙間に汚れが入り使ううちに汚れが定着してしまうため、長く使う道具としては物足りない器となります。
*2.人件費の安い国の陶磁器がすべて悪いという訳では当然ありません。陶磁器は暮らしに直結する道具でもあり世界中に販路を確立する事ができ、技術力により品質が向上します。そのため国策として国営企業で食器を製造する場合もあり、その企業で作られる製品はヨーロッパのハイブランドにも供給されるなど高い品質を有しています。そうした企業は誇りをもってものづくりをしているので決してコピー製品を作ることは無いですが、仮にそうした企業がコピー製品を生産したら単純な品質で比較する事は難しくなります。
*3.大量生産の工場は、大量に作れてしまう生産設備、その大量の器を焼く事ができる大きな窯で製造を行っています。そうした設備では、特に焼成温度の微調整が必要な色合いの製品の製造が難しくなります。その為、そうしたものづくりが可能な窯元に生産を依頼します。こと陶磁器においては規模が小さいというのも特徴となります。但し、産業においては、小さければ良いという訳ではなく、暮らしの中で不足しない程度には供給が可能な生産量も必要となります。個性のために必要な規模と暮らしのために必要な生産量。その狭間で窯元はものづくりを行います。
 

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