(第5話)『地域としての特徴、商売としての課題?』‐美濃焼について思うこと‐

『美濃焼について思うこと』*第4話「美濃焼の特徴は?」から続く


―(第5話)地域としての特徴、商売としての課題?(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

司会:美濃焼の地域全体の【焼き物の特徴】として「特徴が無いのが特徴」という言葉が問屋さんの販売促進を契機に使われはじめ、事実、的を得ているという点は得心しました。それではその自由度とも表現できるような幅の広い美濃焼のものづくりは何により支えられているのでしょうか?

●やきものの主原料は「粘土」「長石」「珪石」。産地内に数多く分布する産出地(資料:瑞浪陶磁資料館提供)

 カネコ小兵 伊藤社長(以下、カネコ小兵):一つ大きいのはこの地域で産出された原料とその活用方法ですね。歴史的な背景や素材の特性が強固な有田焼の場合、希少原料である天草陶石を粉砕し成形して素焼きをして焼くんだけど、その素焼きにしても1000度以上で焼く必要があなるなどコストとしてみるとどうしても高くなり価格に反映される。そのため、その価格に見合う付加価値づくりのため、綿密な絵付けを手書きで行い、その上に金彩や銀彩を施して上質な器を生み出すことで有田焼ブランドを築き上げてきた。器としては素晴らしく、そして上質ではあるけれど、その価格で売れる場所や使い手でしか手が届かない。

●美濃および周辺地域で産出される原料。(瑞浪陶磁資料館提供)

カネコ小兵:でも我々美濃焼の地域には800℃くらいの素焼きでも十分な仕上がりになる扱い易い原料*1が複数産出された、それを調合の創意工夫で陶器、磁器、和食器、洋食器などと幅の広い食器づくりが出来、合わせてコストも抑えることが出来た。だから気兼ねなく日常使いできる食器*2となり買って頂けた。外から見れば特徴が無く見えてもね。どちらが良い悪いではないけれども、こうした地域の素材や技術によって生まれる器もその価格も変わってくる。

●原料を調合し窯元に合わせて生み出されるケーキと呼ばれる状態(画像は深山の白磁土)

司会:有田焼のお話が出ましたが、個人的な実感ですが、今まで出会った有田焼の問屋さんの多くは有田焼という焼き物や文化を大切にしているように感じます。でも美濃だと…

作山窯 高井社長(以下、作山窯):商売を優先にしてるね(笑)

司会:言いづらい事をありがとうございます(笑)。美濃でも、そうした焼き物や文化を大切に感じられる環境があれば生産地の背景やものづくりの価値観はもっと伝わり易くなるのかなと考えていましたが?じつはそれは環境の問題ではなく、美濃の地域としての特徴から生じるものなのでしょうか?

カネコ小兵:美濃の場合は問屋さんがとても多いから、窯元やものづくりを大切にする方もいれば、反対に製造のことをよく分かっていない方もいるね。作られる製品の多様性があるから有田より難しさはあるんじゃない?背景は関係なく低コストで同じものが出来ればいいというところもあるからね。でもそれは過去の窯元にも問題があったからね。売れる製品があるとそれに似たものを安く作り注文を取る、その低価格競争を窯元が率先して行ってきたこともあるから、この環境を作った責任は問屋・窯元両方にあるよね。

●かつての作り手の苦悩、現在の課題を実感を交え語るカネコ小兵の伊藤社長

司会:とすると窯元が率先して変わっていく事が生産地として大切ですね。

カネコ小兵:変わるために大切なのは窯元が価格決定権を持つ事です。かつて窯元には実質的にそれが無い事を気づいてなかった。もちろん問屋さんに売る際の値段はあり窯元が決める訳ですが、それはあくまで原価や工場出荷価格であって、お店で売られる小売価格ではない。小売価格は問屋さんや小売店さんが決めるわけで、大多数は誠実な小売価格を設定してくますが、一部でとんでもなく割安に販売されたりする。安売り競争みたいになるとせっかく開発した製品の寿命が短くなってしまうんです。ただ問題は、その状況でなく、窯元がそれに気付いていなかったこと*3です。当時は窯元は生産に特化して、販売は問屋さんまかせだったので気づけなかったんです。だから当時は利益を増やす為には売上を増やすしかなかった。現在の様に利益率を向上するという視点がなかった。

司会:その小売価格を考えなくて良かった時代が高井社長もおっしゃっていた何も考えなくても売れていたという時代ですか?

作山窯:そうだね。うちは美濃焼の良かった時代を知らないから、創業当初は「生きていくため」に稼ぐ仕事を受けていました。価格の話は創業当時からずっと思ってはいたよ。同じ商品なのになぜ問屋さんのカタログ*4によって値段が違うのか?と。上手にコントロールされていたよね。共に生きるってことは無くて下請けというか、お抱え窯みたいなものでしたよね。当時は。

 でも今は「生きるため」にこういう仕事をするという考え方に変わっています。そうすると自然に自分たちで行動できる。

●(左)作山窯styleシリーズ、(右)カネコ小兵ぎやまん陶シリーズ。それぞれの器に窯元としの想いを内在する。

カネコ小兵:昔は『仕送り窯』って言ってね、例えば焼成のための薪って結構高いんですよ。なので問屋が薪代を先に渡して、それで商品を焼いて納入する。良さそうに見えるけど、薪代をもらってしまうとその問屋さんの製品以外焼けないから他の販路が構築できなくなる。そして、その問屋さんの依頼を断れなくなるから価格は言い値になって安くなるんです。そうなるともう下請けみたいなものですよね。この産地全体が一つの会社だとすると問屋さんが営業担当、我々が製造担当になる。製造と営業だと情報量が全然違いますよね。製造は工場内で終日作っているから外に行って情報を集めることが難しい。営業から顧客の声と言われるとそれを聞かざるを得なくなり価格決定権はない。情報が不足する事で、製造が囲い込まれて、価格設定の問題に目がいかない。そうした課題に改めて気づいたのはネット社会となり、その中でバラバラな小売り価格が表示された事です。そこでやっと我々には価格決定権がなかったんだと気づいたんですよね。2021年10月29日掲載)⇒第四回座談会「(第6話)分業制の意義(仮)」に続く・・・*次回10月29日掲載予定(毎週金曜掲載)


●脚注:*1.近隣も含め美濃周辺で採掘された原料は、粘性・可塑性が良く多様なやきものに使われる「木節(きぶし)粘土」、木節粘土より白色度が高く磁器にも使える「蛙目(がいろめ)粘土」、きめが細かい粘土分が特徴の「高田炻器土」、ガラス質の元となる良質な長石分を含有した「釜戸長石」など。単体ではやきものにならないが組み合わせ調合する事で陶器でも磁器でも多様なやきものを生み出すことができる。 *2.気兼ねなく日常使いできる器とは、サイズや機能性が使い易く、価格が買い易い事はもちろん、安定した供給がができか否かという要素がある。安定した共有とは、窯元として均質な品質で供給ができること、数年たっても変わることなく供給できること、食卓で必要な量が不足することなく供給できることとなど。 *この課題となる時代はバブル崩壊後の1995年から2005年頃を指す。1995年以前も気づいてはいないが作れば売れた時代でもあり問題化はしなかった。しかしバブル崩壊後、内需外需ともに消費が低迷する中、製品開発をしようとした際に自分たちが作っている器が市場でいくらで売られているか知る方法が少ない事に気づいた。問屋のカタログに掲載されている価格はあくまでカタログ上の価格でありこれも小売価格ではない、その問屋さんがどこに卸しているかも分からないため、偶然入った百貨店の店頭で小売価格を知るというケースもあった。この状態は後述にもあるがインターネットやネットショップが整備され画面の中で価格が確認できるようになるまで解消されなかった。 *4、当時はカタログは窯元でなく問屋が作るものであった。問屋が選定した製品を集めてそれぞれの顧客に向けてカタログ化する。その際にカタログに掲載する価格は、それぞれの問屋が窯元からの仕入れ値をベースにそれぞれの計算方法で設定するため、同じ製品であったも問屋A社のカタログと問屋B社のカタログでは掲載価格が異なるケースは多発していたし。この価格設定に窯元が口を出す事は許されない風潮があった。


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