(問一)カネコ小兵にとって欠かせないものは何ですか?-ミノウエバナシ特別編「三つの窯元に”七つの質問”」-

-三つの窯元に”七つの質問”- 美濃焼産地で時代を意識しながらも自らのものづくりを全うするカネコ小兵作山窯深山の三つの窯元。その内なる想いを露わにするため、それぞれの代表に七つの質問を致しました。二つの質問には必ずお答え頂き、残りの五つは自由回答としてお話を伺いました。他社のスタッフがインタビュアーとなり、どの質問にどうお答え頂けるか?それぞれの窯元を想いをご覧ください。


‐窯元情報‐

・株式会社カネコ小兵製陶所 https://www.ko-hyo.com/ 

・所在地は土岐市下石(おろし)町。現在でも50以上の窯元が存在する一大生産地。

・創業は1921年(大正10年)。2021年に100周年を迎えた。

・伊藤克紀社長は三代目として1997年(平成9年)に就任し26年目となる。

・企業理念「やきものづくりを通して暮らしの中の小さな幸せを届ける」

・創業当初は神仏具を製造し、二代目から日本酒の徳利専門メーカーとして生産量日本一になるが社会環境の変化から徳利の需要が減少した為、三代目となる伊藤克紀社長より本格的な食器製造を開始「ぎやまん陶」「リンカ」などオリジナル製品の開発を行う。時代時代の人の営みと、やきものの道具としての存在感を結ぶ窯元。


(問一)『カネコ小兵にとって欠かせないものは何ですか?』(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、聞き手:深山 柴田)

 一番大切なのは【ものづくりへのこだわり】かな。それは「小さな幸せ」を提供できるかという事。この器ならこの料理が良く見えるとか、美味しそうに見えるとかそういう要素が無いとだめかな。「使ってみたい」とか「料理を盛ってみたい」って思われるようにしたい。

●昨年従業員のための改築した休憩スペースでお話されるカネコ小兵の伊藤克紀社長

使い手にとっての幸せと言いう事ですか?-

 そう。でも、使う人が幸せになるなら何でも良いという事でもない。メーカーには想いや個性や強みがある。そういうものづくりとしてのオリジナリティはやっぱり欲しい。その上で、日常で使われて小さな幸せを感じてもらえるものにしたい。奇をてらったものだとか、それこそ類似品だとか…。たとえ売れるとしても、そういうのを作りたいとは思わないかな。もちろん色んなものを参考にするよ。参考にするから似通ってくる部分はあるけど、「ぎやまん」も「リンカ」も何かを真似るという感覚で作ってないな。

●代表作となるぎやまん陶は本格的な食器製造と言う転換期の中の試行錯誤から誕生した。

ぎやまん陶は伝統的な「菊型」がモチーフですが確かに新しく感じますね-

 新しいというのは、全てを一から生みださなくても表現できると思ってます。伝統的なものに新しい風を吹き込むという感覚かな。例えば、ぎやまん陶にしても、菊型を昔ながらの青白磁色で仕上げたら模倣になったと思う。そうではなくて漆ブラウンという新しい釉薬を使い、その釉薬の溶け具合と調和するように形の凹凸を研究して形づくる事で、伝統的な菊型をモチーフにしながらも新しい表現ができたという事を当時の僕は自負してたね。

はじめから「伝統と新しい要素の融合」のような手法的なものづくりをされていたのですか?-

 いえ、試行錯誤です。はじめは先代からの主力であった日本酒徳利の需要が減少して、日常食器の開発を行おうという時にまず考えたことはその器を誰が使うのか。当時、想定したのは料理を頻繁にする女性とその世代。その人たちが使う良い器を作りたい。で良い器とは?という事で、それはその食卓に調和するものだと考えたんです。和食も洋食も食卓に上がるようになったから、どちらも美味しく見える和食器みたいな形で、ともかく使う人が喜ぶ器にしたかったですね。

使う人の喜びが起点にあるからか、代表作である「ぎやまん陶」と「リンカ」では雰囲気が大きく異なりますね-

 映画に例えると、ミステリーでヒット作を生んだ監督でも脚本や役者が整えばロマンスやアクションでも映画を作れるように。美濃焼の特徴である分業制もあって、この地域には役者が沢山いるんです。リンカを作った時は一人の型屋さんとのつながりでした。土を使って原型を作る型屋さんとのつながりからリンカの質感が生まれ、その質感を生かす釉薬屋さんが加わってリンカは誕生したんだと思います。僕自身のこだわりよりも、型屋さんだったり釉薬屋さんだったり…このキャストを集めたら面白い映画が出来るんじゃないかっていう感覚でつくりましたね。

伊藤社長が監督の役割ですね。ぎやまん陶のラフスケッチ(下画像)は伊藤社長が書かれたものですか?-

●ぎやまん陶開発時に伊藤社長が書き起こしたラフスケッチ

  下手だけどね(笑)。製品を開発するといっても、僕はデザイナーじゃないから具体的には生み出せない。でも、このスケッチでも型屋さんと一緒に見ると、形をどうするこうすると具体的に組み上がってくる。釉薬屋さんとなら色をどうしようか・・・と。でも注意しないといけないのは、それぞれに個性があるからきちんを編集しないといけない。例えば、徳利を見せて、この形を作って欲しいと二人の原型師に頼むと、それぞれ少し違うんだよね。釉薬のプロ、型屋のプロ、土のプロ、作りのプロ。それぞれ個性のあるプロで、得意不得意がある。そうしたプロの個性を編集して、きれいに作れることはもちろん、製品として安定供給が出来るように構築するのが私の役割かもしれないですね。

プロたちとのコミュニケーションから生まれるものづくりですね-

 それが無かったら僕にはものづくりは出来なかった。ぎやまん陶の時も、どれだけやったか(笑)。釉薬を決める時も10日に一度は釉薬屋さんと打合せし試作の釉薬を調合して結局100回以上試験したよ。さらには平たい皿と背が高いカップでは釉薬の流れが異なるから、アイテム毎にテストして結局誕生まで三年必要になったんです。

小兵さんの工場は清潔で、更に品質管理によって、ものづくりを標準化されるという事で、窯元には珍しい基準だと思いますが…-   

 きれいな工場だからきれいな製品は出来るという想いがあるんです。やきものの工場ってある程度汚れていても仕方ないって風潮があったけど、それではと思い工場をきれいにし始めたのが2016年くらいから。工場がきれいであれば、管理能力もあると感じて頂けるのでは?それは、うちのブランドイメージにも貢献するんじゃないか…と思って工場もデザインしたいと考えたんです。

●2023年、新しくなったロゴを掲げる工場建屋

伊藤社長の想いをスタッフ皆さんにはどう伝えているんですか?-

 昔、備前徳利と言う製品で多少照りが強かろうが悪かろうが、「しょうがないやきものだから」「景色ですよ」で済ませていました。「景色」は今でもあるので、適性な範囲ならそれでお願いしますが、その景色の幅は安定させたいと思うんです。ブランドとして存在するためには自分たちで品質管理しないといけない。お客に正直になるために品質管理のレベルアップが必要で、それにはスタッフのレベルアップも必要だと考えています。なので、まずは製品を比較して見てもらいます。そうすればまずは違いは分かってくれます。そして、カネコ小兵では同じ工場内に製造現場とネットショップの出荷場があるので、この二部署で、この違いが良品か否かの議論をしてもらってます。このやりとりが大切です。

 加えて、スタッフには製造も出荷も行ってもらうので、どちらも他人事では無くなる。そうすると解決策が色々出てくるんだよ。どちらが悪いわけじゃない。この人が一生懸命やってることを認めたうえで「これからどうしよう」と考える。想いを伝えるというより、当事者になってもらうという感じかな?

●スタッフの小さな幸せで埋まる「小兵の小さな幸せの木」

伊藤社長もその話し合いには加わるのですか?-

 昔はどんどん現場にも絡んでたね。しょっちゅう品質についてああだこうだ言ってました。今は現場が成長したので任せてる部分は多いです。何か聞かれることがあっても、スタッフも経験を積んでいるので、直接回答を提示するより、調査方法を提示するくらいです。

【ものづくりのこだわり】と言う言葉が、はじめとは異なる印象になりました。それは技術や素材だけにこだわるのでなく、地域や歴史、人材に根付いた産業としての包括的なものづくりにこだわるという印象です-

 そうですね、作り手なんだからきちんとした技術で、きちんとした製品を作るのは当たり前で、その上で大切なのが「安定価格」と「安定供給」。価格をしょっちゅう買えたらお客さんが困るし、一定品質のものを必要な時にお渡ししたい。我々は産業としてやってるからね。次の記事に続く2023年3月10日掲載)*毎週金曜掲載


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■(問一)それぞれにとって欠かせないものは何ですか?への回答

「カネコ小兵にとって欠かせないものは何ですか?」

「作山窯にとって欠かせないものは何ですか?」

「深山にとって欠かすことができないものは何ですか?」

■(問二)へのそれぞれの窯元 の答えはコチラ

「伊藤社長(カネコ小兵)の記憶に残る出来事は何ですか?」

「高井社長(作山窯)の記憶に残る出来事は何ですか?」

「松崎社長(深山)の記憶に残る出来事は何ですか?」

■(その他の質問/最終話)へのそれぞれの窯元 の答えはコチラ

「カネコ小兵/前編-”産地の特性”と”窯元の個性”大切なのはどちら?-ほか」

「カネコ小兵/後編(最終話)-一緒に働きたいのはどんな人?-ほか」

「作山窯/前編-これからのやきものの生き残る可能性は?-ほか」

「作山窯/後編(最終話)-一緒に働いてみたいのはどんな人?-ほか」

「深山/前編-気になる自社製品は?その理由は?-他」

「深山/後編(最終話)-”産地の特性”と”窯元の個性”大切なのはどちら?-他」


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■過去の座談会記事一覧

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〉〉〉第五回座談会『野口さんとふりかえる2021年』アーカイブはこちらから

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・・・・・各窯元ウェブサイト・・・・・

參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/

參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/

參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/


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