『梅花皮(かいらぎ)を産業で作り出すこと(前編)』作山窯 高井社長の場合(第三話)‐作り手の大切な器、我が家の食卓‐

『作り手の大切な器、我が家の食卓』作山窯の高井社長編 第二話から続く 


―(第三話)作山窯の高井社長の大切な器、我が家の食卓(語り手:作山窯・高井社長 聞き手:深山・松崎社長、カネコ小兵・伊藤社長、野口品物準備室・野口さん、司会:深山・柴田)

『松崎社長が持ち寄った梅花皮(かいらぎ)の器について話す高井社長』

【梅花皮(かいらぎ)を産業で作り出すこと(前編)】

作山窯 高井社長(以下、作山窯):実はね・・・。さっき深山の松崎社長が持ってきた梅花皮(かいらぎ)なんですけどね、確か25年くらい前、当時は陶芸家の手作りのものしか無かったこの雰囲気を、作山窯として産業では初めて*1製品として見本市に出品したんです。1年目はダメでしたが2年目には売れ始めて、そこから定番的な白い梅花皮に加え、緑や青の梅花皮も作りました。その頃からかな?他の窯元や釉薬屋さんも作り始めてね。だから梅花皮の土も釉薬もそのポイントも全て分かります。

カネコ小兵 伊藤社長(以下、カネコ小兵):(驚)梅花皮を産業で始めたのは作山窯だったの。今はやってないの?

作山窯:やってますけど、この技法はたくさんの不良品が出易いんですよ。

司会:不良品ってどういうものですか?

作山窯:梅花皮特有の不良は『めくれ』です。梅花皮(かいらぎ)の細かいヒビは「器本体の土」と「表面に塗る化粧土」と「その上に塗る釉薬」の一つの器に使う三つの素材の収縮率の違いを応用して生まれるんです。工程としては、まず器本体に化粧土を塗り施し、その状態で釉薬に浸し吸水させ、その後、釉薬が乾燥します。その乾燥していく過程で釉薬や化粧土が縮むんです、その縮みにひっぱられて化粧土にヒビ*2が入って梅花皮になるんですが、その縮みが強すぎると化粧土や釉薬が剥離するんです。その現象が『めくれ』という不良です。難しいのは、その段階でのめくれはコンマ数ミリの目では見えない気づかないレベルで、それを1200℃以上で本焼成した時に大きく剥離するんです。だから『めくれ』は一見すると、焼く事で発生したように見えるけど、実はそうじゃなくて化粧土と釉薬を塗った時にすでに剥離している、だけど焼かないと分からない。

『梅花皮とは:不良品とならない紙一重のものづくりから生まれるやきものの味わい』

カネコ小兵:化粧土は本当に難しいね。ひび割れって本来はそれ自体が不良で、普通は器本体と釉薬や化粧土の収縮率は近くしてヒビが出ないようにする。でも、梅花皮(かいらぎ)は敢えてひび割れがでるようにそれぞれの収縮率をわざわざ変えて、絶妙な相性の悪さにする事で、やきものらしい面白さが生まれるようにしてる訳だからね。

作山窯:本当に難しい。20年以上作ってるわけですが、歩留まり*3は安定しないですね。どれだけ環境を保って、化粧土や釉薬の比重を一定にしても、素材自体が天然物である以上、ある意味、毎日違うものづくりをしているわけですからね。ひどい日では半分くらい不良品になってしまう。

深山 松崎社長(以下、深山):でも、この土の風合いと言うか、やきものの味わいと言うか、器としては雰囲気が良いですよね。

作山窯:そう、雰囲気は良い。元々の雰囲気に加えて、使っていくと生地の土に色が染み込むから、その変化が余計に雰囲気を生み出すからね。

カネコ小兵:萩焼の七化け*4みたいなもんだよね。使い込んでいくうちに、それぞれの色が染み込んで、どんどん独特の雰囲気がでるっていうね。

司会:伝統的に梅花皮(かいらぎ)を作り続けている萩焼では、歩留まりは安定してるんでしょうかね?

作山窯:分からないけど、安定はしてないんじゃないかな。萩焼の場合は作家ものや工房もので元々価格帯は高いし、生産数も少ないから歩留まりも含めて価格に入れられると思うよ。でも美濃では、毎日使ってもらえる日常のうつわとして量産してるからね簡単に価格を高くするという選択はできないね。

『謎?梅花皮の高台の内側だけ色が薄いのは?』

作山窯:で、梅花皮(かいらぎ)の表面が剥離することに戻るけど、この皿、裏面のハマ(高台)の内側のところが一回り色が薄くなってるでしょ。この理由分かりますか?

深山:いや、なんでだろう・・・2021年6月18日掲載)⇒第四話『作り手の大切な器、我が家の食卓』作山窯 高井社長の場合に続く・・・*6月25日掲載予定(毎週金曜掲載)


●脚注:*1.やきものは天然原料により作られ、そこから生まれる一つ一つ予測できない個体差が魅力だが、結果として表情が面白いものとそうでないものが生まれ、面白いものだけが器となる。よく陶芸家が窯から取り出したものを「違う」と言って叩き割る風景がそれである。しかし、日常の暮らしでお使い頂く道具としての食器が一つ一つ違いすぎては不便となる。そのため産業で製品として食器を作る場合はあまり個体差の生まれない素材や技法で作るケースが多い。梅花皮(かいらぎ)はそもそも個体差が生まれ易い技法。この技法を産業として面白い個体差の範囲内で生み出すことは挑戦的な試み。 *2.やきものの装飾で「貫入(かんにゅう)」という器の表面にひび割れが入ったものがある。梅花皮も貫入もこのヒビを味わいとする訳だが、ポイントはこのヒビ割れを表面だけに抑えること。土と釉薬の収縮率を調整し生み出すこのヒビもその調整具合によっては器の内側までヒビ割れしてしまう。 *3.製造した総数のうち良品として完成した数量のパーセンテージをあらわす。不良率。 *4.山口県萩市で主に作られるやきもの「萩焼」はその素材の特性などから貫入や梅花皮が一つの特徴。その特徴から生まれた言葉が「萩の七化け」。使い込むうちに器に染み込む色合いにより器の風合いが変化する様を表し、その変化を茶人などが愛しました。


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