『作り手の大切な器、我が家の食卓』*カネコ小兵製陶所の伊藤社長編 第二話から続く
―(第三話・最終)カネコ小兵 伊藤社長の大切な器、我が家の食卓―(語り手:カネコ小兵・伊藤社長 聞き手:作山窯・高井社長、深山・松崎社長、野口品物準備室・野口さん、司会:深山・柴田)
【使い手の感覚で座る食卓】
司会:まずは使ってみる。食卓で自身が体感しながら、それをものづくりにもつなげるわけですね。
カネコ小兵 伊藤社長(以下 カネコ小兵):本当そうよ。そこで大事なのはコミュニケーション。料理が美味しくて、器も良いなって感じた時にはきちんと「今日いいね。」って伝えるとすごく喜んでくれる。アドレナリンが出て、もっと料理がしたくなるらしい。そこでまた美味しい料理が良い器づかいで出てくるから使い手としてもっと体感できる。
運営スタッフ:(思わず)そうですね。(深くうなずく)
カネコ小兵:もちろん、ただ褒めれば良いって事でもないからね。「今日は何か違うな」みたいな変化に気づいて、きちんとそこを伝えることが大切。以前、妻*1が作山窯の器を使ってたことがあって、その時に「これいいやん。」って言ったら、すごく喜んでくれて、もっと料理がしたくなったって言ってた。そうしてくれると「作り手」の自分には見すごし易い、盛りやすいサイズ感とか「使い手」の想いに気づくことができて、それが次の器のヒントになっていく。
司会:そうしたお話はどんなタイミングで聞くのが一番良いですか?
伊藤社長:例えば、一口に『青色』*2って言っても、実際にはいろんな青があるから比較になる器が無いのに「青い皿ってどう思う?」と聞いても使い手にはイメージしづらいと思うんです。この小田陶器さん八角形の器と小兵の梅皿の青色は似てるけど微妙に違うよね。言葉では伝わりづらい感覚的な事だけど妻を含む使い手はこの微妙なところにすごく敏感だと思う。色だけじゃなくとサイズ感もそう。パスタのお皿の大きさは数字で何センチとか言ってもダメなんですよ。そのものを見せて初めて「これだとパスタには小さいね。煮込みハンバーグには良さそう。」とイメージが浮かび上がる。だから妻に話を聞くのは、試作できて実物を見て使ってもらってからですね。
司会:さっき思わずうなずいてしまったIさん(運営スタッフ)。この青の違いってどう感じますか?
運営スタッフ:色の印象って、実際には色からだけじゃなくて、器の形や深みとあいまって印象が決まると思うんです。梅小皿は色の名前だと『藍色』と感じるので和食が合いそうだなと感じますし、小田陶器さんの八角形の器は『ターコイズ』か『ダークターコイズ』っている印象を受けるので洋風の料理が良いかなって。そういう点では確かに実物で見て感じないと想像できないですね。
カネコ小兵:使い手のその感覚を感じたいんです。それが我が家の食卓では妻が料理を作った食卓。そこに自然と使われている器は、きっと使い易い器なんだなって思えるから、ヒントになるのかな。
カネコ小兵:以前、料理人さんから器を選ぶタイミングについて、『素材や料理が決まってて、その相性からうつわを選ぶこともあれば、まず季節に合わせて器を決めて、その器にあう料理を考えることも両方ある』って聞きました。タイミングはまちまちだけど料理でも季節でも何らかシーンの様なものがある訳で、単に器としてではなくてシーンを想像した時に選んで頂ける器を作れるように、使い手が器に何を感じるといった感覚のようなものを食卓から得たいなと思いますね。(2021年7月16日掲載)⇒番外編『作り手の大切な器、我が家の食卓』運営スタッフ二人のIさんの場合に続く・・・*7月21日掲載予定(毎週金曜掲載)
●脚注:*1.參窯のオンラインストアでは「ハス冷酒器 漆ブラウン」をおすすめ頂いている伊藤久子店長 *2.食器のおける「青色」はとてもつながりが深い色。小田陶器さんの八角皿もカネコ小兵の梅小皿も「コバルト」という名の原料を釉薬に調合する事で発色している。このコバルトを絵具として絵付けしたものは染付や青花とよばれ9世紀頃には器に使われた形跡があり、それ以来、やきものの定番色として愛され続ける。やきものと相性が良い理由は単にその色だけではなく、この原料が溶けやすく自然な濃淡が生じ易い性質を持ち、それが焼く事で現れるため綺麗な色と言うだけではない奥行も併せ持つことに由来する。半面、濃淡が生じやすいという事は安定的に発色させる難しさもある。それもあり各窯元がそれぞれ焼成の特徴に合わせて相性の良いコバルトを使った色合いを表現する。全ての釉薬がそうであるが特にコバルトを使った色合いで中途半端な色を出すことは窯元にとってはかなり恥ずかしく感じる。そのため、この二つの青色は単なる色の違いではなく、小田陶器さんの青色、カネコ小兵の青色といった具合にそれぞれのものづくりの個性やスタイルの表れでもある。
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