質問③「食器をきれいに使うお手入れは?(後編)」

■第四回うつわ、やきもの相談所 -ギャラリーショップMINOの店長重松さんからのご質問-


 ―質問③「食器をきれいに使うお手入れは?(後編)」―(聞き手:MINO 重松店長、語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

「質問③(前編)」からの続き-

作山窯:作家ものの器は、(電子レンジは)使えないって伝えた方が間違いないよね。さっき深山さんが言ってたような釉薬の試験はやっぱり産業のものづくりがベースになってるから、作家さんで試験までしてる方はほぼいないんじゃないかな?

重松さん:そうですね。そうお伝えします。他にも、作家ものの器に目止めをされたら、その段階ですごく貫入が入ったと言われた事もあるんですが…

●陶器の観点から電子レンジや目止めを説明する作山窯の高井社長(左)と重松店長さん(右)

作山窯:素材が陶器だと厳密には貫入が入らないものはないと思うよ。見た目でわかるか分からないかの違い*1aだけ。陶器の場合は「貫入は入ります」って事を前提として説明した方がいいです。貫入は土と釉薬の熱膨張率の違いで生まれる小さなヒビだから、目止めのために煮沸したお湯にいきなる入れるたりして急激に温度が上がると、その瞬間に熱膨張が起こって貫入が入ることがあると思いますよ。

重松さん:(驚)そうなんですね。

作山窯:でも水だけなら乾燥したらまた見えなくなるからね。だから貫入が無くなったように思ってしまう*1bけど、実際は目立ってないだけ。

●貫入のうつわ。ヒビの線が黒いのは土が黒いため。

司会:目止めをする水に色がついてたら、その色が残っちゃうんですか?黒い陶器をお米のとぎ汁で目止めすると貫入にでんぷんが残って白く見えちゃうとか?

作山窯:それは残り易いかもしれないね(笑)。墨貫入みたいに敢えて貫入の器を墨に浸して色をつけるような技法もあるくらいだからね。だから、水だけで目止めするのでも十分ですよ。毎日使うんだったら。

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):作山さんの製品も目止めするの?

●作山窯スタイルシリーズの裏面の土が見えている部分。粘土分が 多いため粒立っているのが見受けられる。

作山窯:素材が陶器の器が多いですからね。した方がいいと考えてます。汚れもそうだけど水がしみ込まないだけでもカビが発生しにくくなるから。匂いもつきにくくなりますし・・・。基本的に陶器には目止めした方がいいです。お客さんには「うつわを触って粒子が荒く感じる器はお使いになる前に少し目止めしてくださいね」って言った方が間違いないです。

カネコ小兵:使うたびに目止めしなきゃいけない?

作山窯:一番最初だけでいいですよ。基本的に一度入ればずっと含んだままになるから。ただ、その後、数か月使わないってなると、それもまたよくない。空気中の水分を吸収しちゃうからね。京都の和食屋さんに行ったとき、収納する時に必ず紙を敷いて収納してました。あれは紙が水分を吸収してくれるからです。まず、片付ける時はしっかり乾かす。そして、長く使わない時は紙を敷くなどして器が水分を吸収しないようにする。使う人が面倒みるしかないですよね。中には柔らかな雰囲気を生み出すために900℃くらいの低温焼成の陶器もあったりするから、それなんか水をすぐ含んじゃいますから。

司会:陶器のお話ばかりになってしまいましたが、素材が磁器の場合は注意する事ありますか?小兵さんのリンカシリーズは素材が磁器ですよね?

●カネコ小兵リンカシリーズ。黒い器の裏面の白い部分が土が見えている場所。白くツルツルしており磁器であることが分かる。

カネコ小兵:磁器だからここまで考える必要がないんだよね。僕が磁器にこだわるのはそこ。丈夫でじゃぶじゃぶ洗いたいって想いがあったから。そういう意味では、家庭でも気を遣わずに使えるものには磁器が向いてると思ってるね。リンカは陶器と間違えられ易いけど素材は磁器で、しっかり焼き締まってて*2吸水率がほぼ0%だから、使いやすいと思いますよ。ただ、ぎやまん陶の漆ブラウンだけは傷が付きやすいのでちょっと気を使ってもらわないといけないけど、それ以外は気を遣わずに使ってもらっていいですよって言ってます。今までもそういうクレームはないですしね。

深山:そうですね、深山の器も基本的に全て磁器ですが、そうした点を気にした事はありませんでした。ガラス質が多く素材が密になっている磁器はそこも特徴ですよね。反面、作山窯さんのように味わいのある釉薬を生み出すことには苦労します*3けどね。

●磁器の特徴について説明するカネコ小兵の伊藤社長(左)と深山の松崎社長(右)

司会:ありがとうございました。それでは次のご質問に移りますね・・・・。2022年5月20日掲載)⇒うつわやきもの相談所「ギャラリーショップMINO店長重松さんからのご質問その④(前編)に続く・・・*次回5月27日掲載予定(毎週金曜掲載


脚注:*1ab.一度入ってしまった貫入が通常に使用しているうちに元に戻る事は無い。しかし実際には無くなったよう見える事がある。それは貫入が表面の釉薬にのみ入っているヒビだから。表面の釉薬にヒビが入っていてもその下にある土の部分までヒビが入っていなければ、熱膨張が終わった土が元のサイズに収縮する際に表面の釉薬も収縮してヒビの部分がピッタリ合わさって目立たなくなる。この熱膨張や収縮はあくまで顕微鏡レベルで見た場合で肉眼で膨張収縮は確認できないが、貫入の存在が素材が膨張収縮したことを示している。ちなみにもし土にまでヒビが入ってしまっていたらどうなるか?それは明確で割れてしまうという事。釉薬の厚みは1ミリあるか無いか程度ですが、貫入という装飾はその1ミリの層にだけヒビを入れるというもの *2.陶磁器を焼く事を“焼き締める”と言う表現をする事がありますが、この表現がまさしく焼き物の所以に即しています。陶磁器は焼くと土の種類にもよりますが10~15%程度収縮します。収縮というと小さくなるという印象ですが、何故小さくなるかという点がポイントとなります。陶磁器の原料の基本となる粘土、長石、硅石の内、粘土は基本的に焼いても粒状のままで体積も変わらず存在し続けるため粒の間には隙間が残ります。それに対してガラス成分となる長石と硅石は焼くと溶けて液体状になります。この溶けた長石と硅石が粒状の粘土の隙間に流れ込み土の中にあった空洞を埋めていきます。焼く前は土の中に無数にあった空洞を解けた長石や硅石が埋めていくと、その分だけ体積は減って見た目も小さくなります。これが陶磁器の焼成による収縮です。そして、この過程で無くなっていく土の中の空洞が吸水性の原因です。そのためガラス質の少ない陶器はこの空洞が残ってしまい、そこに水や汚れが入ってしまいます。この空洞を埋めるための作業が“目止め”ですが、ガラス質の多い磁器の場合は焼成時に十分に空洞が埋まるため水や汚れの入る余地が無くなり、目止めは不要となりまます。陶磁器の焼成はこうした土の中の空洞を埋める作業となるため“焼き締める”という素材を固めるような表現が使用されます。 *3.これまでの説明だと磁器の方が圧倒的に便利な印象を受けますし、便利か否かという点では確かに磁器に軍配があがります。しかし陶磁器、特に食器において最も大切な機能は食事が楽しくて美味しく感じられるか否かという点です。この点において磁器は陶器に圧倒的に水をあけられています。*1の説明にある貫入は磁器ではかなり難易度の高い技法であり、土にまでヒビが入ってしまう可能性が高く、産業において磁器の窯元が手掛けることはほぼありません。しかし陶器は、吸水性としては課題となる土の中の空洞が緩衝帯となって貫入のような表現も可能となります。このように陶器にはやきものにおいて幅広い表現が可能となる強みがあります。


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