『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』*カネコ小兵編一つ目:ぎやまん陶とぎやまん陶として保つためにから続く
―深山と作山窯から見るカネコ小兵の凄味―(語り手:作山窯・高井社長、深山・松崎社長、受け手:カネコ小兵・伊藤社長)
『二つ目:窯元禁断の本物の飴釉』
伊藤社長:ぎやまん陶は、最初から形があった訳では無くて、この漆ブラウンの様な漆の色を作りたかった*11ことが始まり。当時、いろいろな器やそれが使われる場所を見てきたら、本物の漆みたいな色のやきものっていうのはないわけよ。それで「これならいける」と思って開発に取り掛かった。はじめから飴釉*12を作るつもりだった訳では無くて、漆に近い色を目指したら飴釉をベースするのが良いと考えて、そして作ったらもう流れるわ流れるわ*13、棚板にまでくっついちゃって。
伊藤社長:棚板が使い物にならなくなるのでは飴釉を作るのは無理かなって何度も思ったけど、その時に釉薬屋さん*14が協力してくれ何度も相談し、原料の調合や焼成方法、焼成位置など試行錯誤し試作して、結局三年かかってこの釉薬「漆ブラウン」が出来た。その中で飴釉が流れてしまう事はできるだけ調整しながらも、同時にその特性を活用もした。このぎやまん陶の菊型に塗ると、その花の形の凹凸に応じて飴釉が流れる。深みのある所は飴釉が溜まり濃い飴色に、凸のレリーフ部分は飴釉が流れ薄くなって素地の白が浮かび上がり、飴釉の風合いと器の形が調和したこういう仕上がりになった。
松崎社長:飴釉はあまり窯屋さんやりたがらない*15aですよね。
伊藤社長:開発をはじめた後に耳にするようになったけど、飴釉を手掛けたせいで廃業しちゃった昔の窯屋さん*15bもあるらしいな。
高井社長:そうですね飴釉は色としては人気があるから手掛けたくなるし、手掛けたらよく売れるから忙しくなるけど、結果、工場の中は汚くなるし不良やロスの発生が多い*15cから、色んな意味で採算合わなくなるからね。
司会:飴釉を手掛けると工場の中が汚れるんですか?
高井社長:飴釉の原料に使ってる『鉄分』が工場内に飛散して赤くなっちゃう*15dね。
伊藤社長:そう、その飛散した鉄分が他の製品に付着して鉄粉という不良になったり、焼成中にも棚板に鉄の成分が染み込んで、次にその棚板を使う時に白磁の器を焼くと、その器にも鉄が移って一部に錆色のような赤が発色*15eするね。こう言う課題のある釉薬は飴釉以外には瑠璃釉という原料にコバルトを使った深みのある青色を発色する釉薬。あれの場合は青くなっちゃう。鉄分もコバルトも原料としてはとても細かい粉状だから、飛散すると相当こまめに掃除したり管理しないといけなくなる。
高井社長:次の焼き場に移っちゃう*15fんですよね。だからあんまりやりたくないです。
伊藤社長:飴釉でもキャラメル色のものはよくあるけど、(ぎやまんを持ちながら)ここまで深い飴色を使って日常使いの器を作っている窯元はなかなか無い*16と思うよ。(2021年4月9日掲載)〉〉〉(カネコ小兵その3「ロングライフなものづくりのために」に続く)
(注釈)*11. 漆色に取り掛かる経緯はoutstanding products store「ハス冷酒器 漆ブラウン」をご参照下さい。 *12.「あめゆう」と読む。トロリと光沢のある飴のような色合い。鉄分を原料とした釉薬により発色する。釉薬が使われはじめた古瀬戸時代からその風合いは見られるが、代表的なものは浜田庄司らによる器づくりが盛んであった約100年ほど前の益子で作られた民芸の器。この色合いは北欧の器でも散見され、東西を問わずなじみ深い。 *13.飴釉の原料にはその質感を生み出す為、ガラス質と共に色合いの元となる鉄分を調合する。ガラス質も鉄分も非常に溶け易いため、それらを多く含む飴釉は焼成中に良く溶け、器を置いている板にまで流れてベトベトになってしまう。ベトベトはあくまで焼成中の状態で、実際に窯出し後は板の表面に流れた飴釉がくっついてしまい使いものにならなくなる。板は棚板と呼ばれ、40㎝×50㎝程度のもので数千円するため、棚板に釉薬が流れ使い物にならなくなることは大きな損害となる。伊藤社長はとても軽い表現をされているが実はかなり悩ましい課題 *14.釉薬の専門メーカー。窯元の要望に対して、その窯元の焼成や工程の特徴を理解しながら原料を調整し調合し釉薬を制作してくれる。窯元では理解しきれない釉薬の科学的な組成を理解し、窯元のイメージする風合いを具現化する。実は科学者的な気質があり、たまに酸化鉄をFe2O3とか組成式で表現してくるので頭にクエスチョンマークが浮かぶ。 *15abcdef.飴釉は雰囲気良いので基本的には評判が良く売れる。しかし不良率が多く採算が合わないことがある。さらに、釉薬に含まれる鉄分は非常に細かく粉砕されているため乾燥すると窯の中や工場の中に飛散して、製品や製造をする為の様々な道具に付着してしまい、飴釉以外の器にも影響を及ぼしてしまう。結果として過去には飴釉に夢中になったため廃業した窯元もあった。こうした特徴を持つ釉薬はもう一つ、深い青みを発色する瑠璃釉の原料として使われるコバルトにも言える。そのため窯元の間では本物の飴釉と瑠璃釉に中途半端に手を出すことは禁断の一手とされる。 *16.深山にも飴釉と名乗る釉薬はあるが、原料の組成で言うと厳密には飴釉ではなく、他の原料を使うことで飴釉的な風合いを生み出している。言うならばジェネリック飴釉とでもいうものだが、この開発にも試行錯誤が繰り返されていて、こうした釉薬の開発に*14の釉薬屋さんが力を貸してくれる。
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