(第12話)『美濃のものづくりの根っ子の課題』‐美濃焼について思うこと‐

『美濃焼について思うこと』*第11話「作り手だからできること‐SDGs考‐」から続く


―(第12話)美濃のものづくりの根っ子の課題―(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

司会:ここまで産地について歴史や技術や原料など様々なお話を伺いました。美濃焼という存在の特徴が不明瞭なこと、窯元だけでなく原型師や原料メーカーなど関連する仕事においても後継者問題があること、生産地の中で横行するコピー製品の問題、原料枯渇とリサイクルへの対応など多くの課題がありましたが、その根本には窯元のみで何かを行動する事が難しいこと、製品を作るまではできても、発信や販売などその先に積極的に立ち向かえないという状態に課題があるように思われたのですが?

●カネコ小兵製陶所 伊藤社長

カネコ小兵 伊藤社長(以下 カネコ小兵):そもそも窯元からの動きが必要となる要因の一つは、問屋さんの存在の変化、そして役割が曖昧になったこと。特に企画や物流の面で。

作山窯 高井社長(以下 作山窯):昔は問屋さんが美濃焼全体の物流部門であり営業マンだったから製品を在庫し、顧客の要望に応える窓口になっていた。でも様々な環境が変化したことで今は窯元でも窓口になれるようになった。そして、そうした環境だからこそ窯元に企画力がついてきた。

司会:自ら企画力をつけたというよりは結果的についたというような形ですか?

作山窯:顧客の窓口となる以上は提案しないといけないからね。モノも情報の流れも変わってきてるわけでしょう。工場に居ても情報は入っているから自分たちで企画する窯元であれば提案も出来る。作り手という特徴のある窯元がそうなると、ものづくりにおいては問屋さんに良い人材が集まりづらいよね。昔は問屋さんや百貨店の売り場にも窯元以上にやきものの知識がある人がたくさん居たよ。

●作山窯 高井社長

司会:どうしてそういう人たちが減ってしまったのでしょうか?

カネコ小兵:美濃焼というか美濃の陶磁器産業*1には1985年と1991年あたりで二つの波があるんですよ。1985年はプラザ合意で日本円が変動相場制になりそれまで盛んだった輸出が急激に減少した時期。そして1991年ころはバブル景気です。この時期はギフト(引出物など)がすごく売れたんですよ。特に価格の割にたくさんの器がセットになっているいわゆるボリュームギフト2aがものすごく売れたんですよ。ものが動けば企業も力を入れる。だから人材も当然育ち易いよね。

司会:僕の実家は多治見市で陶磁器の上絵付を営んでいました。伊藤社長がおっしゃった1985年は小学6年生だったんですが、それ以前と以降で確かに作っていたものが変わった印象があります。

●1985年以前の海外への輸出が盛んだったころ多治見市で作られていた洋食器(司会担当の実家で生産した製品)

司会:夏休みみたいな長い休みあると家業の手伝いをさせられて(笑)いたのですが、小学生くらいまで(1985年以前)は実家の場合は中近東向けでしたがとても華やかなディナープレートの梱包を手伝わされて、たまに名古屋港まで納品に行くのについていっていましたが、中学生から(1986年以降)は、カップ&ソーサーの5個セットやポットとペアカップ&ソーサーみたいなギフトセットを一日中梱包していました。当時はこれが3000円2bで売られていると聞いて「ふーん」て思っていましたが、今の感覚だと、そのセットを3000円で販売するというのはとてもあり得ない事ですね。今だったらポットだけで3000円を超えるし、カップ&ソーサーはペアでも3000円は難しいですね。

●同じく司会担当の実家でボリュームギフト向けに作られたカップ&ソーサー。当時、これが5個セットで3000円であった。

カネコ小兵:輸出が盛んだった時代(1960~70年後半)に、世界に追い付け追い越せで身に付けた陶磁器製造の技術やそれによるコスト力を生かした成長だったんですよ。でも現在はその生産量が減少してきた。人件費などが低コストな中国が陶磁器生産国として台頭して市場を奪われたことが第一の要因。だけどそれに加えて生活様式の変化もある。例えば昔は法事で家に親戚を呼んだ時の食器として一般家庭でも湯呑みを数十個揃えていたりしたけど、葬祭会館など専門の式場ができてそこで法事を行うから、余分な食器を揃える必要が無くなるとか、生活様式が変わってきちゃったんだよね。低コスな生産国の台頭とライフスタイルの変化によって、同じものをたくさん作る、いわゆる大量生産の需要は減って売り上げがどんどん落ちた。そうすると企業は人材の確保も控えるし育成も疎かになった。

●1985年、1991年を含む美濃地区での窯元数の推移(資料提供:岐阜県陶磁器工業組合連合会)

作山窯:それでも変わらず問屋さんからの仕事を主体にしたい窯元もある。でも、そうでない窯元もある。それぞれの窯元の考え方次第かな。

司会:選択肢が増えたという事ですね。

作山窯:そうそう。自分たちの生き方としてはこっちがいいんじゃないのっていうだけの話で、どっちが正解でもない。大量生産のトンネル窯*3aだったら問屋さんがいないと絶対回らない*4aもん。トンネル窯は焼き続けないといけないからそれだけの人と製品が必要になるから。注文に対して器を焼くのではなくて、トンネル窯をまわす為に焼かなきゃいけないっていうのは理解しがたい流れだけどね。でも、そうして、ずっと焼くものが必要だとすると、問屋さんを介さずに取引するのはまず無理*4bだと思う。うちらみたいなシャトル窯*3bだったら生産量に合わせて焼けるけどね。

●カネコ小兵、作山窯、深山のシャトル窯。台車に製品を組んで、窯の中に入れ、火をつけて、蓋を閉めて焼成する。

司会:そういう点では変わらず問屋さんの役割も必要になってくるのですね。

カネコ小兵:それはあるよ。『今まで通り幅広く問屋全体に向け取り組む』のか、『考えを共有できる問屋を限定して取り組む』か、もしくは『窯元のみで行動し直接取引を拡充する』か、ざっと選択肢が3つある。それをきちんと選択して自身の窯元の在り方を決めてもの作りをおこなう事がこらからの窯元の課題なんじゃない。2021年12月17日掲載)⇒第四回座談会「(第13話・最終)これから?(仮)」に続く・・・*次回12月24日掲載予定(毎週金曜掲載)


脚注:*1. 日本国内の半分以上の陶磁器を生産する美濃焼を担う多治見市、土岐市、瑞浪市には製品として陶磁器を作る企業以外にも、作品として陶磁器を作る陶芸家や工芸品として作る工房など多様な形態がある。それぞれ時代に応じた社会環境の影響は受けているが、ここでは製品として作る企業における大きな変化を語るため『美濃の陶磁器産業』という表現をしている。 *2ab.ボリュームギフトとは価格と比較してボリューム感のあるギフトと言う意味で、ざっくりというと「この価格でこんなにたくさんっ」というギフト。その中心価格帯が3000円。3000円は結婚式の引き出物で使われる主要な価格帯。最も動く価格帯の為、この価格の中でどのような組み合わせを提供できるかが競われた。その一例が記載されている「カップ&ソーサー5個セット」など。 *3ab.トンネル窯もシャトル窯も窯の形式名。【トンネル窯】は名前の通りトンネル状の窯の中を台車を通して焼成する窯。ベルトコンベアーのような方式。大規模な工場では数十メートルの長さを持つ。大量生産を目指しコスト効率を良くするために作られた窯で基本的24時間焼成を続ける。巨大な分、火を落とすと再び焼成可能な温度まで上げるのに時間を要するため、途中で焼く事を止めることが出来ない。その為、深夜や土日などの休業日にも常に焼く製品が必要となり稼働日のうちにその生産量が必要となる。また、こうした窯元の場合は年末年始やお盆休みを2週間など長期でとり、その間だけは窯の火を落としてメンテナンスを行う。一方、【シャトル窯】は画像にもあるように四角い箱型で手前に扉がある形。製品を台車に組み上げて窯に入れ蓋を閉じ焼成する。焼きあがって冷めた後に蓋を開けて取りだす。中小規模の生産量の窯元はこの窯がメインであり、大規模窯元もトンネル窯のサブ的に保有している場合もある。參窯の三社はいずれもシャトル窯。生産量に応じて焼く回数を調整できる(もちろん各窯元ともできるだけ多く焼きたいことは変わりないが)ため受注生産体制が可能となる。その為これら窯元の年末年始や夏季休暇は通常の企業程度(休みの長さだけだとトンネル窯のメーカーが羨ましくなることもある。トンネル窯とシャトル窯、この窯の形式の違いにより窯元のスタイルは限定され次の4abにつながる。 *4ab.問屋さんの役割に倉庫機能と物流機能がある。かつてと比較すると低減したが、それでも一定の問屋さんはこの機能を有している。24時間焼き続けないといけないトンネル窯はつまりは24時間製品が出来上がってくるという事であり、その取引先はトンネル窯が回る状態で発注し、そして製品を引き取る必要がある。トンネル窯から常に出来上がってくる製品を問屋の倉庫機能で保有する。トンネル窯の特性と問屋機能は相性が良いため、そうした窯元は問屋とのつながりが必要となる。


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