【うつわ、やきもの相談所】では使い手からのご質問に対して、窯元それぞれのものづくりを背景にご回答します。今回はインスタグラムよりご質問頂いた@yuuchi_21様のご質問にご回答致します。
(@yuuchi_21様からのご質問)私は、生まれた時から古美術が周りにあり、幼少期から何度も作陶体験をしたり、窯の見学にも行っていました。器を作るために、どれだけの手間がかかるがわかるので、手に取ると、作り手さんの思いが伝わります。ですが、一般的には、器自体に興味がない人が多いです。軽いのがいい。食洗機にかけられればいい。割れないのがいい。かわいいのが、かっこいいのがいい。私は今30代ですが、周りは、こういう人たちが多いのが事実です。食の多文化に加えて、食事をとる行為自体のニーズも、変化してきていると思います。器を作るときに、今のニーズを吸い上げるために、されていることはありますか?また、これらのニーズに対応する食器を作るのは、難儀だと思いますが、いつかはこれを作ってみたいという目標があれば、知りたいです。
(三話掲載の一話目)*「カネコ小兵製陶所」「深山」の話はこちらの一覧ページより。
‐作山窯の場合‐『サイズは日常に寄り添うことを、色合いは心に委ねて。』
柴田(以下、司会):製品開発には、タイミングや手法やニーズのような何か基準としているものがあるんですか?
高井社長:製品開発は常時行っている訳では無くて、年に一度、2~3月までに新商品を作るというのは決めていますね。2ヶ月くらい集中して作ってます。特に厳密にニーズから作り出すことはしていないですね。「こういうの」作ってみたいな、「ああいうの」作ってみたいなというのが浮かびあがるくらいで。具体的なきっかけがある訳ではなくて、例えばだけど、”こういう色の展開はどうかな”って浮かんでくる感じ。
司会:それは、高井社長が暮らしている中で、次はこういう色が欲しいなって思い浮かぶ、ご自身の好みみたいなものを軸に開発されているということでしょうか?
高井社長:そうそう。色のニーズって100人いたら100人違うから、それに合わせたことはあんまり考えてない。ただ、サイズや大きさについては、大体、料理を盛る器の定番のサイズって決まってるじゃないですか。で、そのサイズが家にある他のお皿のサイズなわけだから。そことの関係性は大切ですよね。食器棚で積み重ねたときに変な感じになるともう使ってもらえないよね。そればっかりで揃えてくれるんだったら別だけど、実際の家庭の器はそうじゃないからね。だからサイズ感だけは変えないし、形状も最近はほとんど作らないです。逆説的だけど、食の多様化ってなったら別に何があってもオッケーじゃない。だから無理して新しい型を作ってまで形にこだわる必要はないかなと思っています。大きさや形は食卓の定番感に寄り添ったスタンダードなものを変えず、方向性とか加飾(顔料や釉薬で彩ること)での開発を考えてます。
司会:顔料での加飾の器も作られてますよね。お皿の淵に呉須をまいたり(呉須はコバルトという青い顔料。お皿のフチに一周コバルトを塗ることを「まく」とよぶ)だとか。
高井社長:線を一本引くだけでだいぶイメージ変わるでしょう。
司会:変わりますね。以前(*「やきものらしい色合いの表現」参照)もお伺いしましたが、その加飾につかう顔料や釉薬は、絵具屋さんや釉薬屋さんだとかと打ち合わせし、作りながらブラッシュアップされているということですか?
高井社長:そうそう。
司会:アイテムやサイズ感は定番的なところをベースにしながら、色をどうするかで表現されていると感じるのですが、その色の感覚はどういうところからくるのでしょうか?
高井社長:普段の生活だね。なるべく本当は会社の中にはいたくなくて。休みの日もなるべく外に出るようにして、そういう中で感じる。あんまり家にいたくない人だから(笑)。外出の半分以上は一人。休みの日も、6割、7割は一人かな。色んな所に行ってる。毎回違う場所じゃなくて、同じ場所に行く場合もあるよ、友達のところに行ったりだとか。
司会:会社の中よりもそういう時にアイディアが浮かぶんですね。お話伺ってると、ニーズに対して食器を作る難しさを実感されているように思いますが・・・
高井社長:そうだね。めちゃくちゃ難しいね。それに、いつか作ってみたいのような先の長い目標っていうものも無いね。
司会:何かに向かってというよりも、その瞬間ゝゝの想いを形にしているんですね。年に一回の開発のタイミングでその瞬間の気持ちをボンって表現して、また次の年はその瞬間の気持を表現してと、毎年新鮮な表現のために。
高井社長:そう、だからこれが終わったら廃人になる。(笑)
(取材後記)作山窯さんの器は現代の暮らしと調和し多くの使い手に愛されているイメージを持っています。今回のお話で、その器を生み出す高井社長の製品開発の根っ子に、数百年以上食卓を彩り続けた”悠久の存在たる食器への信頼”と、開発の期間以外はものづくりとの距離を意識的にとる事で生まれる”使い手としての自分自身への信頼”を感じました。それはお話の内容に加え、その時の表情や雰囲気から伝わるもので、ブログ形式の文章では表しづらいものですが、この二つの信頼から生まれるからこそ作山窯さんの器は、日常に寄り添う器となるのだなと得心しました。(柴田)
(2021/3/10)*三話掲載の一話目
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