『作り手の大切な器、我が家の食卓』*參窯スタッフのY.IさんとR.Iさん編 第二話から続く
―(番外編 第三話・最終)參窯スタッフY.IさんとR.Iさんの大切な器、我が家の食卓―(語り手:スタッフY.Iさん、R.Iさん 聞き手:カネコ小兵・伊藤社長、作山窯・高井社長、深山・松崎社長、野口品物準備室・野口さん、司会:深山・柴田)
【うつわか?食器か?】
司会:続いて、同じく參窯スタッフのR.Iさんの持ってきた器です。ぐっと現代的ですね。
スタッフR.Iさん:そうですね作家さんのものなどです。
深山 松崎社長(以下 深山):この器は違うよね。
スタッフR.Iさん:この器は以前勤めていた窯元のものなのですが、釉薬が不思議で、ドボ塗*1で一度しか施釉してないのですが、釉薬が濃い部分は白く発色してに、釉薬が薄い部分、例えば線のレリーフ部分や器のフチだとグレーやイエローやグリーンとそれぞれのカラーが浮き出てくるんです。一度しか塗っていないのに白ともう一色の2色が表れるんです。
カネコ小兵 伊藤社長(以下 カネコ小兵):この白い部分は化粧土*2で発色させているわけではないんだね?それなのに釉薬が薄い部分がグリーンになったりするの?
スタッフR.Iさん:そうですね。量産メーカーだったのでコストを抑えるためには工程は増やせないので、釉薬の調合の工夫で発色させていました。
深山:僕は、これいいなあと思いますね。このカップソーサーはどういうものなの?
スタッフR.Iさん:それは陶器市で購入した作家さんの器です。この器にも色んな色が表れていますが、こっちはさっきの窯元とは違って、数種類の釉薬を吹き付けてこの雰囲気を出しているとおっしゃってました。この器は、窯元の仕事だったら釉薬を取り除かないと焼けないテーブルとの接地面になる裏まで釉薬がかかっているのはどうしてかな?と思ってます。
作山窯 高井社長(以下 作山窯):針焼(はりやき)ですね。裏面の多分三か所くらいを針で支えて浮かして焼いてます。ほらこの辺りですね。ただあまり高温で焼くと針も歪むし、器自体も歪んでしまうから多分1100℃くらいの低温で焼成してるんじゃないかな。針が支えた跡は小さな点しか残らないからうまく削っちゃえば分からないんですよ。
カネコ小兵:焼成温度が高いとお皿のフチが下がったり垂れたり変形するからね。焼成の温度は音で大体わかるよね。うちのぎやまん陶を焼成している1230℃以上で焼くと響くような高音がする。焼成温度が1200℃より低くなると鈍い音になるね。
作山窯:一つ目の窯元の器と、二つ目の作家さんの器の違いは量産できるかどうかの違いですね。それはつまり作るものが日常の食器か特別な器かの違いでもあります。どちらが正しいんと言う事では無くて、それぞれの暮らしに対する役割ですが、窯元はやっぱり食器作らなきゃいけないと思うんですよね。
司会:安心して日常で使える器という事ですね。食を愉しむためのうつわとしての美しさはもちろん、強度や機能面での道具としての使い易さや価格面での気兼ねなさを併せ持つことだ出来るのは確かに窯元だけの様な気がします。小兵さんのコンセプトの「気楽にじゃぶじゃぶ洗える」にも通じるところがありますね。
カネコ小兵:そうそう。作家ものも良いけど使うのには多少気を遣うんですよね。それだと毎日気軽に使うという訳にはいかない。だから小兵の器は、毎日気軽に使えるようにフチを少し厚くして割れにくくしたりするからね。(2021年8月6日掲載)⇒第三回うつわやきもの相談所に続く・・・*8月20日掲載予定(毎週金曜掲載*8月13日はお盆休みとさせて頂きます)
(編集後記)当初は各窯元の社長がご家庭でどのような器を使っているか、大切にしているかを見ることで、自らの窯元で作っている器と実際に使っている器とのギャップを楽しめたらくらいのテーマでしたが、結果としてはスタッフの器も加わり全13話の長編となりました。自身がうつわを作っている事もあって単なる説明では終わらず、そのものづくりや時代の背景、さらには他の方の器を見て紐解いての解説など窯元ならではの知見を窺い知る楽しい時間となりました。深山のショールームで3時間程度収録してこの内容でしたので、お酒のある場所で行っていたら朝までかかっても尽きないような気もします。やはり器づくりの方々ばかり、手元に器さえあれば話はどんどん広がりそうなので、また何かテーマを変えてこうした器について語って頂きたいと思いました。
●脚注:*1.釉薬を施す方法。釉薬の中に素焼きの器をドボッと漬け込むのでその名となる。深山のYouTube(うつわの釉掛け)で動画をご覧頂けます。釉薬に漬け込むと素焼きの持つ吸水性によりその表面に釉薬がコーティングされますが、液体状の釉薬が乾くまではとても短い時間のため、その間に均一に釉薬を施す為には、その器の形に合わせた塗り方が必要となるとても熟練をもとめられる工程。 *2.その名の通り器の表面を土で化粧すること。もしくはその土の名前。黒い土で出来た器に白い土で化粧をすると白い土の下から微かに黒い土の風合いが表れ良い雰囲気となり、その上から釉薬を施す。通常この風合いには化粧土と釉薬の2種を重ねて塗る必要があるが、この器は釉薬の調合を工夫 することで釉薬のみで化粧土の風合いを生み出した。釉薬の工夫により工程を減らしても近い風合いを生み出すことでコストを抑えながら心地よいやきものとして作り出している。た。
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