質問①「釉薬は、色によって硬いものと柔らかいものがありますか?(前編)」

■第四回うつわ、やきもの相談所 -ギャラリーショップMINOの店長重松さんからのご質問-


 ―質問①「釉薬は、色によって硬いものと柔らかいものがありますか?(前編)」―(聞き手:MINO 重松店長、語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長)

司会:今回の相談所では參窯初の企画展示*1を行って頂いた「ショップ&ギャラリーMINO」の店長である重松さんからご質問を頂きました。日ごろお客さんから接されている方から、どんなご質問が来るのだろうと少しドキドキしてます。

MINO店長 重松さん(以下 重松さん):よろしくお願いします。実はお店でずっと悩んでいることがありまして、それは取扱説明書の内容についてなんです。これでいいのかな?って。お店では陶器も磁器も色々な器を扱っていまして、さらに加えて、同じ磁器でも作家さんごとで、また違った雰囲気になります。その違いを取扱説明書でどのようにご説明するかですごく悩んでいるので、今日の質問のご回答を参考に改善していきたいなと思います。

●ギャラリーショップMINO 重松店長さん>>>インスタグラム @cpm_shop

司会:4つも質問をご用意頂いたんですよね。これは困っている順番ですか?

重松さん:いえ、順番は特になく、思いついた順に書いています。(笑)一つ目の質問は【釉薬のこと】*2です。以前お客様から『家族で色違いのスープカップを使っていたのですが、金属のスプーンでスープをすくったとき、内側に黒い筋みたいな線が入り、あれ?と思って他の部分もスプーンでこすったら跡がつきました。普段使われている他の器も改めて見ると、跡が有るものと無いものがありましたが、どうしてスプーンで傷つくんですか?』という質問がありました。実物を拝見した訳で無かったので「貫入(かんにゅう)が入っているのかな?」など想像したんですが、跡がついた器が白色と水色と薄いピンク色だったそうで、もしかして器の色によって器が傷つきやすいということがあるのかな?もしかして釉薬には色によって硬いものと柔らかいもの*3があるのかな?って思ったんです。他のメーカーさんの器ですが、やきものにはこうした現象はあるものでしょうか?

司会:洋食器だと金属の跡が残るメタルマーク*4という現象がありますが…。では、まずは白磁の器をつくる深山の松崎社長からお伺いしたいです。

●金属製のカトラリーを使うと生じるメタルマーク(器の釉薬は白いマット釉)

深山 松崎社長(以下 深山):磁器においては貫入は本当のヒビなので、その黒い筋とは違いますよ。釉薬の硬い柔らかいはおっしゃる通りあります。ただ千差万別で例えばツルっとした表面の光沢釉でも白磁釉は硬いので金属跡は残りますが傷はつきにくいのですが、ツルッとしてても例えば濃い黒釉は柔らかいため金属跡じゃなく傷が生じ易いです。傷が生じる理由には釉薬の「硬い柔らかい」という点が影響しますね。あとマット釉みたいな質感のものは金属跡がつき易く残り易いです。

重松さん:同じ色でも違いは出るんでしょうか?

深山:同じ色でも質感が違えば、跡の残り易さの差はでますよ。白磁釉は比較的残りにくいと思いますが、このロクベシリーズに使っている青白磁釉は柔らかいので、同じようにナイフを使ったら青白磁の方が先に跡が残るんじゃないかな。

●釉薬の質感を説明する深山 松崎社長。手元の器は青白磁釉のロクベボール(この釉薬の詳細はコチラより)

司会:作山窯さんの器は素材が陶器になると思いますが、どう対応されているんですか?

作山窯 高井社長(以下 作山窯):陶器の場合は最初から「金属の跡がつきますよ」ってご説明します。特に貫入釉やマット釉は柔らかいから傷つきやすいし汚れ易いですよね。貫入については、陶器では素材の特徴から釉薬の収縮率の差で入る*5ものも多いですね。うちも度々言われますよ。だからお客さんにもそうご説明します。陶磁器で絶対入らないものはないと思った方がいい。きちんとご説明を続ければ、体験頂きながら、やきもののそうした特徴を理解してもらえるんですよ。

●同ショップで開催した「參窯展」。手前左の青いうつわなどが作山窯の陶器のうつわ

作山窯:だから、答えとはちょっと違うかもしれないけど、まずは「全部入るよ」って言った方がいいと思う。それがやきものの器を理解頂くきっかけになるから。あとは目立つか目立たないかだけですね。実際は磁器の洋食器でハイブランドのものであろうが何だろうが入るものは入りますからね。

重松さん:それはスプーンで傷がついたという事ですか・・・?

●陶器の器の特性を説明する作山窯 高井社長*作山窯の素材への想いについてはコチラより

作山窯:傷じゃないですよ。メタルマーク・・・2022年2月25日掲載)⇒第四回うつわやきもの相談所ギャラリーショップMINO店長重松さんからのご質問その①(後編)に続く・・・*次回3月4日掲載予定(毎週金曜掲載


●脚注:*1.參窯展は2021年9月30日より11月7日まで開催された參窯として初めての企画展示。コロナ禍での開催となったがリアルで行う初のイベントとなった。詳しくはこちらのイベントリポートより。 *2.今記事では光沢釉、白磁釉、黒釉、青白磁釉、貫入(かんにゅう)釉、マット釉と幾つか釉薬の名前が出ているが、これらは色を表現している名前と質感を表現している名前に分けられる「光沢釉」「貫入釉」「マット釉」はその質感を表現しており。「白磁」「黒」「青白磁」は色を表現したものだが、白磁や青白磁はその言葉の中に光沢の白や光沢のある青白という意味も含んでおり単純な色の名前とは異なる要素も含んでいる。 *3.堅い柔らかいと表現しているが、この場合は柔らかさはスポンジやゴムのような柔らかさではなく、本文中にもあるようにスプーンなどの金属質で傷が付くか否かという点を基準とした堅い柔らかいという表現。 *4.直訳すると「金属の跡」。スプーンやフォークなどの金属製のカトラリーを使用した際に、その擦れた跡が器の表面に付着した状態。特にマット質の釉薬の表面には残り易い。金属の色合いと言う特性から、本文中の画像にある白いマット釉のような「色の薄いマット質の釉薬」は特に目立ち易い。 *5.貫入(かんにゅう)は器の表面に意図的にヒビを入れてそれを意匠として愉しむという和食器で使われる技法。生じる理由は器の素材である「土」も表面を彩る「釉薬」も焼成により収縮し固まるが、その収縮する比率の差が大きいと表面にヒビが生じる。ヒビと言う表現の通り意図せずに生じてしまうものは問題があるため、基本は土と釉薬の収縮比率をできるだけ合わせて生じないようにするが、敢えて微かな収縮比率を発生させて器表面だけに微かにヒビを入れて意匠としてはじめて「貫入」という装飾となる。主に陶器に使われる技法。陶器の場合は土の粒度が荒く余白があるため収縮に対応する余地があり貫入が可能となるが、磁器の場合は土の粒度が細かく余白がないため収縮比率の違いに対処しきれず器自体が割れる事もあるため、工業製品としてはあまり使用されない。


〉〉〉「器、やきもの相談所」一覧に戻る


〉〉〉■ご意見、ご感想、お問合せはコチラから


・・・・・各窯元ウェブサイト・・・・・

參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/

參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/

參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/


・・・・・參窯ミノウエバナシ contents・・・・・

●ブログ「三窯行えば、必ず我が師あり」

●ブログ「うつわ、やきもの相談所」

●作り手に聞いてみたかったことがある》》》 ご質問はコチラへ

●オンラインストア「outstanding products store」

 ●イベント案内「歓迎/出張ミノウエバナシ」

産地でのファクトリーツアーや消費地でのワークショップなど、リアルなイベントのご紹介です。

●コラム「ノグチサンのミノウエバナシ」

●參窯(さんかま)へのお問い合わせは 》》》 こちらへ



 

 

関連記事

PAGE TOP