『買い戻した原風景の朱泥煎茶碗』作山窯 高井社長の場合(第一話)‐作り手の大切な器、我が家の食卓‐

『作り手の大切な器、我が家の食卓』深山の松崎社長編 第三話・最終話から続く 


―(第一話)作山窯の高井社長の大切な器、我が家の食卓(語り手:作山窯・高井社長 聞き手:深山・松崎社長、カネコ小兵・伊藤社長、野口品物準備室・野口さん、司会:深山・柴田)

『朱泥の煎茶碗についての想いを語る作山窯の高井社長』

【買い戻した原風景の朱泥湯呑み】

深山 松崎社長(以下、深山):今回、作山窯さんが持ってきた器はちょっと驚きました。興味深いです。

作山窯 高井社長(以下、作山窯)そう?普段家で使っている器も改めて探したんです。ヨーロッパのアンティークな器で、すごく綺麗な発色してた低温焼成*1のグリーンのピッチャーを持ってたんだけど、どこにあるかわからなくてもう諦めましたね(笑)。それ以外で他の窯元の器で持って行きたいものが無かったし、作山窯のうつわも家で使ってるけど、ほとんど妻が選んで料理してるので、それが僕にとってはヒントになってるところはありますが、今回のテーマとは違うかなと思って。という事で、この『朱泥*2の湯呑み』だけ持ってきました。

 この煎茶碗は父が作っていたものです。父ははじめは絵付けの窯元をして、その後、本焼成用のトンネル窯を作り窯元となりました。その窯ではじめて手がけた製品がこの朱泥の湯呑み。昭和後期だったので、引き出物などのギフトの器としてこの美濃の地域で大量生産してました。この表面の植物柄は全て手彫りなんですよ。当時は職人さんが10人位いて、一つ一つ全部手で彫ってました。湯呑み以外にも花瓶とか急須とか作ってましたね。

『煎茶碗の細部に目を凝らすカネコ小兵の伊藤社長』

カネコ小兵 伊藤社長(以下、カネコ小兵):これ相当手間懸かってるね。この植物柄を彫った後に、その彫った中に墨を入れて黒くしてるわけだよね。

作山窯:そうですね。外側の彫った柄のところには墨で色をつけたり、内側には「中白(ナカジロ)」と呼んでましたが白い透明感のある釉薬を施してます。それで、何故これが大切なうつわなのかというと、ご存じの通り朱泥は元々は愛知県常滑市が産地で、常滑で産出された朱泥土で作られたものです。そして当時の美濃ではその土は手に入りませんでした。そのため父は、様々な原料の調合からはじめ土から作り出して量産化したんです。その姿が私のものづくりの原点というか、自分の窯は、こういう地域にあるから、だからこういうものを作らないといけないという様な囚われがないという点につながっているように感じるからです。

 確かに、それぞれの産地にはそこで産出される原料の違いがあって、例えば常滑は朱泥土に恵まれ、有田は白い土*3に恵まれ、この美濃も強度のある土*4に恵まれた。原料の調達が難しかった時代はその土地土地である意味原料に囚われて器づくりをしていました。でも、様々な原料を手に入れる事ができれば、あとは創意工夫さえあればどんな焼き物でもどこででも出来るよっていうものづくりの姿勢ですね。

 父がこの煎茶碗をつくっていた頃、私は小学生でしたが工場の風景は良く覚えてます。この色を出すために黄土を調合していたので工場の床や壁もその色になってて、その中で職人さんが一列に並んで、絵柄を手彫りして、その後、竹ベラで表面を磨いていました。その光景への思い入れもあってこの朱泥のうつわが一番好きなですね。

『朱泥煎茶碗の裏面。このつややかな仕上がりを生み出す職人の仕事』

 ですが、私が大人になって実家に戻った時、工場は叔父さんに譲ったこともあってこの製品は作っていなかったし残ってなかったんです。でも、たまたまネット見てたらネットオークションに出品されてて!                                                                                                   

カネコ小兵:買い戻したの?                                             

作山窯:そう。結構な品数買い戻したんです。煎茶碗以外にも木箱に入った花瓶もありましたがオークションだから安いもんですよ。だけどもう手元に無かったし、見たかったから買い戻しました。(2021年6月4日掲載)⇒第二話『作り手の大切な器、我が家の食卓』作山窯 高井社長の場合に続く・・・*6月11日掲載予定(毎週金曜掲載)


●脚注:*1.低温とはいえ1000℃程度で焼成する。この焼成方法は光沢感や鮮やかな発色を求めフリットと呼ばれる溶けやすいガラス系原料を使った釉薬を使用したものと思われる。一般的なやきものは1200度以上、製品によっては1300度以上で焼成する。これは原料を焼き締めるためその温度まで上げるが、反面、高温になると鮮やかな色は飛んでしまい発色しなくなる。低温焼成は色の発色に重きをおいた焼成方法。日本の楽焼も近しい方法。 *2.赤褐色の色合いとなるやきものの素材。素材の原料に多く含まれる鉄分が焼成により反応し赤褐色に発色する。中国の明代宜興窯で生まれ茶器の生産に使われた。日本でも江戸時代にその風合いを求め万古焼、常滑焼、佐渡無名異焼など近しい原料が産出される地域で生産される。   *3.17世紀初め有田の泉山で発見された良質な陶石「泉山陶石」が有田焼の磁器のはじまり。この陶石は、組成する原料が粘土に適した絶妙なバランスであるうえ、白く焼くための邪魔ものとなる鉄分などの含有が元来少ないため、足し(粘土にするには不足する他の原料を調合する事)たり、引い(鉄分など不純物を抜く事)たりしなくても、上質な白磁が焼きあがる奇跡的な素材。  *4.強度のある土とは単純に製品としての硬さではなく、様々な器づくりに対応できる変形に対する強度と言う意味。日本の食器製造の約5割を担い洋食器から和食器まで幅広い製造を行う美濃焼においてはこの多様性に対応できる素材が大切にされた。代表的素材は可塑性が高い蛙目(がいろめ)粘土や木節(きぶし)粘土など。


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