(第1話)『カネコ小兵伊藤社長が思う今の美濃焼』‐美濃焼について思うこと‐

『美濃焼について思うこと』*第0話「時代と数値からみる美濃焼の今」から続く


―(第1話)それぞれが思う今の美濃焼は?前編(語り手:カネコ小兵製陶所 伊藤社長)

司会:はじめに、皆さんそれぞれが思う「今の美濃焼」について伺えればと思います。今の美濃焼は良いのか悪いのか、正しいのか間違っているのか、誠実なのか不誠実なのか、魅力があるのか無いのか。どのような観点でも結構ですので、率直に美濃焼の周辺について思われることをお話いただければと思います。まず伊藤社長よりお伺いしてよろしいでしょうか?

‐カネコ小兵 伊藤社長の場合‐

カネコ小兵 伊藤社長(以降 カネコ小兵):先ほど美濃焼の窯元数や出荷額が減っているという話がありましたが、それは美濃焼だけではなく、全国の産地で食器の生産出荷額が下がってるんだよね。だから美濃焼の減少だけがという問題ではないと思っています。

『美濃焼について語るカネコ小兵 伊藤社長(右端)と耳を傾ける作山窯 高井社長(中央)と深山 松崎社長』

 ただ、そうではないとしても、この美濃焼の地域は今が一番厳しい状況かなと考えています。それは単純な生産出荷額という数字の減少ももちろんありますけど、その減少により引き起こされる事に更に大きな問題があります。

司会:数字には表れづらい問題点がある訳ですね。何でしょうか?

カネコ小兵:美濃焼は、それぞれの工程に特化した分業によるものづくりで育ってきた産地です。それは、美濃焼の器を日常使いの器として、毎日の食卓でお使い頂けるレベルで供給量や品質やコストを安定するには量産化が必要であり、その手法として、それぞれの工程で専門的な作業ができる分業制が適していたためです。しかしこの分業制が出荷額減少を起因とする【岐阜県全体の原料の枯渇(供給量低下)問題*1】や【原型師さん・型屋さん・釉薬屋さん・成形外注さんなどのアトツギ問題*2】などで崩れはじめています。そこが根深い問題だと思っています。

『分業制の一つ。石膏原型を制作する原型師』

カネコ小兵:かつて美濃焼は社会の要望にこたえるため、高品質な食器を頑張って*3安く大量に作ってきました。一つ一つは安価でもたくさん作って量を増やすことで分業制を維持していた時代です。こうした背景があるから同じ土を原料としていても、ひとつ数百万円もする人間国宝の器が生まれると共に、100円ショップの器まで生み出すことができるという幅広い食器の生産できたわけです。

 だけど、これからはこの考え方は違うんじゃないかと考えています。今のままの価格帯では成形外注さんにも正当な費用を払えない、釉薬屋さんにも払えない。安さを武器にたくさん売るという考えはダメなんじゃないかと思っています。これから大切な事は、いいものをそれなりの価格*4できちっと売っていくということ。それをこれからやっていく必要があると思います。そのためにも「これをこれくらいの価格で売るならどうしたらいいだろう?」ということを考え、そして伝えていくことが大事だと思います。価格帯が変わる事で生産量が減ったとしても、きちんと利益を確保する事で、分業で共に器を作る方々にきちんとお支払いする。日常使いの道具として上質な器を生み出す美濃焼が、これからもそうした食器づくりの地域で在り続けるために、専門的な技術を有した職人集団による分業体制を維持することが美濃焼のこれからにも大切だと考えています。

『カネコ小兵製陶所の代表作【ぎやまん陶】の中でも伊藤社長がおすすめの楕円焼物皿』*この器への想いはコチラから

司会:ありがとうございます。次に高井社長は今の美濃焼についてどう思われますか?2021年9月23日掲載)⇒第四回座談会「(第二話)美濃焼について思うこと 中編」に続く・・・*10月8日掲載予定(毎週金曜掲載)*10月1日は「作り手からの器の紹介‐カネコ小兵 ぎやまん陶シリーズ‐」を掲載予定


●脚注:*1.原料とは「粘土」「長石」「硅石」「カオリン」「陶石」など陶磁器の主成分となるもので採掘により得ることができる。枯渇問題は純粋に上質な原料自体が不足している事だけでなく、生産出荷量が減る事で需要自体が減り採掘場の経営が難しくなり、例えばその場所にショッピングモールが建ってしまうと原料が残っていても採掘ができなくなってしまうように、需要が減る事で供給力も低下してしまう課題でもある。 *2.後継者問題は窯元にも存在するが、より深刻なのが関連産業である型屋さんや成形外注さん。自身で製品を作る事が出来る窯元は様々な展開を自主的に行えるが、関連産業ではその点が難しいため、生産出荷額が減る中では経営者自体が積極的に後継の育成を行わず自身の代で終えることを想定している場合もある。 *3.あえて【頑張って】とした理由は、輸出や国内需要が盛んな昭和中期の「作れば売れるという時代」にその多くが始まった産業としての陶磁器製造は、その多様性から家族経営のような小規模な運営も多くコスト意識をあまり持たないいわゆる「どんぶり勘定」という経営状態であった。その場合の「頑張って安く大量に」とは改善によるコスト低減ではなく、例えば「夜遅くまで家族で頑張って働いて」といったものであるため。 *4.あえて【それなりの価格】とした理由は、一時期「高付加価値」といった考え方の中で価格をできるだけ高くすることが模索された。しかし、この三窯の目指す食器はあくまで日常の暮らしの中で使って頂けるようなものである、その為、ただ単に高くするという事では無く使い手が毎日の食卓で楽しく使って頂くのに負担にならない範囲できちんとした価格設定をしたいという想いのため。


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