『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)‐』(第二話)日進木工の70年間と事業継承から続く
―(第三話)『家具流通の変化と日進木工の足跡』―(語り手:株式会社日進木工 北村社長 聞き手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)
司会 柴田(以降、司会):日進木工さんのショールームが東京にできた当時、地の家具メーカーさんが消費地にショールームを持つのは少なかったんですか?
日進木工 北村社長(以降、日進木工):その頃から増えましたね。それ以前にも、この地域で言えば柏木工さん*1aや飛騨産業さん*1bはすでに東京ショールームがあって、日進木工もついて行かないといけないなと思っていて・・・そうしてスタートしました。
カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):東京にショールームが出来る前は、お客さんが高山に買いに来ていたんですか?
日進木工:現在は流通も多様化しています。日進木工の流通を例にとると、現在は全国の家具専門店さん、インテリアショップさんなどいわゆる小売店が主となっています。ですが、一世代昔はそうした小売店への直接販売は無くて、製品は全て代理店さんに卸売り*2aし、そこから全国津々浦々の百貨店や家具屋さんに販売していたスタイルだったんです。だから代理店に任せっきりな販売だったんです。
カネコ小兵:代理店というのは?
日進木工:いわゆる問屋さんです。例えば東京、名古屋、大阪や九州、札幌、仙台とかの主要都市にあって、その地域の家具屋さんなどの小売店さんをカバーするために、地域単位で問屋さんに任せていました。
深山 松崎社長(以降、深山):家具のような大きなものでも問屋さん経由なんですね
日進木工:そうですね。父がちょうど今の僕の年齢の頃はそうした卸売りへの流通が主でしたね。
深山:今は、それが小売店への流通、いわゆる直販*2bになったんですね。
日進木工:そうですね。東京ショールームを立ち上げる少し前から、小売店への直販に切り替わって行きましたね。ライフスタイルの変化なのか、先ほどあった作り付け家具の影響なのか、かつてのように一度に大量に売れない時代となって売上も下降線をたどり、当然、問屋さんの販売力も低下して、そうした環境下で必然的に切り替わりましたね。どうですか?多分、陶磁器業界にも似たようなところがあるんじゃないかなと思いますけど。
カネコ小兵:全く同じです(笑)。深山さんが直販の販売会社*2cつくったのもその頃じゃない。
深山:その頃ですね。当時、日進木工さんが卸しているアクタスに、弊社の食器も取り扱って頂いていて身近に感じた記憶があります。
日進木工:あのころアクタスさんなど質の高いインテリアショップ*3が注目され始めて、そうしたお店はメーカーと直接コンタクトを取りたいという想いもあったのだと思います。取引の最初はカタログ商品の取り扱いからですね。そんな形で、だんだん直販が増えて、現在はほぼそうした形態です。他にもハウジングメーカーさんとの取引もスタートして、より製品を見せる場の必要性を感じ東京ショールームへとたどり着きます。その他にも、建築設計事務所とのつながりも増えコントラクトと言われるホテルやレストランなどの業務用ルートやネット販売など流通はかなり細分化されました。特にコントラクト案件では施設に合わせた別注対応にも力をいれてやってきました。
カネコ小兵:海外の展示会*4aにもでてましたよね。
日進木工:はい。ちょうどその頃、現会長がリミックスジャパンというブランドを提案したんです。岐阜県には家具を含め陶磁器、繊維、刃物など多様な伝統工芸品があって、それらをひっくるめて岐阜県発のライフスタイルとして海外に発信しようと・・・2000年代初めだったと思うんですが、ニューヨークで岐阜県主導の「ORIBE inニューヨーク」と言うお茶会的なイベントを行いました。それを皮切りにパリのメゾン&オブジェ*4bに6年、シンガポールでのメゾン&オブジェ・アジアに2年出展しました。そうした事もあり2010年くらいから輸出がはじまりました。
司会:それまでは輸出はなかったんですか?意外ですね。
日進木工:輸出はほとんど無かったです。だからノウハウもなくて勉強しながら応対してました。
司会:現在の輸出の割合はどれくらいですか?
日進木工:結構波があります。特に今はコロナの影響があるので。多い時で8%程度。現在は5%程度くらいで推移してます。今8カ国に輸出してますが、こちらもディストリビューター*5経由ではなく直販で対応しています。家具は元々が高額なので、どこかを経由して販売すると中間マージンが発生してすごく高いものになってしまいますから。あと製品が大きい事もあって輸送費も課題で、これを考えると現実的には今のところはアジア圏じゃないと継続的な販売にはならないとも感じてます。このあたりも今の円安でどのように影響してくるか、ちょっとわかりませんが。(2022年7月15日掲載)⇒第六回座談会「④新型コロナとウッドショック」に続く・・・*7月22日掲載予定(毎週金曜掲載)
●脚注:*1ab. 飛騨産業(https://hidasangyo.com)も柏木工(https://www.kashiwa.gr.jp)もいずれも高山市に居を構える家具メーカー。日進木工と同様に飛騨木工連合会にも所属しており「飛騨の家具」ブランド認定企業でもある。家具を製造する企業としてはライバルでもあり、飛騨高山の家具の技術や品質を守り伝えるパートナーでもある。*2abc.かつては製造と販売は別々に行われていたケースが多い、そうした場合に製造したものを消費地に伝え届ける役割を果たしたのが「卸売り業」であり「問屋」とも呼ばれる。こうした環境ではメーカーは製造に集中できるため効率は良い。ただ、消費者に届くまでに製造→卸売→小売→ユーザーと段階が多くタイムリーな供給が難しい。その為、卸売業が倉庫的な役割を果たし計画的に製品を在庫し供給を行う事で対応していた。しかしバブル崩壊などを経て暮らしの価値観が多様化と共に製品も多様化し、従来の在庫方法の堅持が難しくなり徐々に受注生産、もしくはメーカーが在庫を持つようになった。同時期にインターネットの発展もあり、生産地からの情報発信や取得が容易になり卸売りを介さない商流も可能となった。陶磁器業界でも同様であり、そうした中で深山は2005年に販売会社㈱ミヤマプランニングを設立し物流機能を確保して卸売りを介さない商流の試みた。 *3.インテリアショップと言う表現は世界では限定的で、ヨーロッパなどでは「ライフスタイルショップ」と表現されることがある。つまりこうした形態が提案するのは製品そのものでは無くて暮らし方(ライフスタイル)となる。従来の家具専門店が製品としての家具のみを販売していたのとは異なり、ライフスタイルショップでは家具だけでなく食器などその暮らしに調和する生活用品全般を取り扱い、それらを生活空間のように展示しユーザーに提案をしていた。 *4ab.海外に販売するための、当然であり、最も大きな課題は【知ってもらう事】。その知られる機会を得るために海外で開催される展示会に出展する。出展する際に重視されるのが、その展示会の【国際性】。せっかく海外の展示会に出展するのであれば開催国だけでなくそれ以外の国からも来場がある展示会の方が効率がより。そうした観点から選択し出展したのが【メゾンエオブジェ】というフランスでの展示会。ヨーロッパでも最大規模の展示会であり、アメリカやアジアなどヨーロッパ外からの来場も多い。広大な会場で開催れるため当時でも6つの建物にカテゴリー毎に分かれていた。リミックスジャパンが出展していたカテゴリー「ethnic chic(エスニック シック)」はその名の通りアジア的なニュアンスを落ち着きのある雰囲気で表現し欧米のライフスタイルと調和するよう紹介された。 *5.ディストリビューターとは、販売代理店や代理人と言った存在。企業と契約し、指定された国でのその製品の販売促進を行う。自ら倉庫を準備して海外で在庫を持つケースもあり、日本から発送するという時間的なロスを防ぐことができる。但し、それら費用は当然販売価格に反映される為、高くなりすぎて売れないというケースも発生する。家具の様に元々納期が必要で、在庫のメリットが少なければディストリビューターを設定せず、日進木工のように直接取引を行う選択もある。
■過去の座談会記事一覧
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〉〉〉第四回座談会『美濃焼について思うこと』アーカイブはこちらから
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參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/
參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/
參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/
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