(第一話)『陶磁器産業の原料やエネルギーの現状』-第七回座談会 -原料高騰と価格改訂から想うこと

 連日のようにニュースのトピックスになる「値上げ」や「価格改訂」。参窯の三社も同様に今年5月~6月にかけて価格改訂を行いました。過去の価格改訂では、値上げによる消費停滞が嘆かれることが多かったですが、今回の価格改訂には、報道からも、取引先からも、これだけ原料や燃料が高騰する以上は仕方がないので受け入れるといった印象を強く受けます。
 確かに、諸原料の高騰は値上げのきっかけとなりましたが、こと陶磁器においては、それ以前から価格に対する課題は存在し、その背景には「窯元や問屋などそれぞれの事業に内在する産業の問題点」が見え隠れしていました。
 しかし今回の価格改訂では、原料高騰が価格改訂の要因で、価格は原価の積み上げでのみ決定されるという印象を受け、産業内の課題があやふやなまま、結果論として低単価問題に対策されてしまったようにも感じます。今回の座談会では、原料高騰でなし崩し的に進んだ価格改訂に隠れた課題を浮き彫りにするため、価格の存在意義についてお話を頂戴できればと考えます。

(第一話)『陶磁器産業の原料やエネルギーの現状』(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)

司会:まず、現在の諸原料の高騰について伺いたいのですが、燃料も原料も高騰傾向はいつ頃から始まったのでしょうか?2019年からの新型コロナは影響していますか?

深山 松崎社長(以降、深山):最近の報道などで言われるような原料や燃料の高騰には新型コロナの影響は当然ありますが、実際には原料である粘土の高騰やその原因である枯渇問題はそれ以前からありますね。

作山窯 高井社長(以降、作山窯):直近では今年の4月に粘土は値上がりしましたね。

カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):上がった・・・。五年間で3回目の値上げです。特に粘土分の多い生地*1aの値上げが大きいね。

●蛙目粘土*1b:美濃焼に無くてはならない白い粘土。この粘土が何故に枯渇するのか?

司会:それは原料、特に粘土分が枯渇しているのが原因ですか?

カネコ小兵:枯渇と言っても本当に無くなってしまっているという事では無いんです。いくつか要因はありますが、枯渇という表現に近い意味では「純度が低下している*1C」という事があります。土の中には粘土だけがある訳では無く、石や砂が色々な状態で混じっています。その中で特に粘土分が集中しているところを掘り始めた訳だから、徐々に土の中の粘土分は減少します。1トン土を掘り出せば、40%粘土が取れたものが、20%しか取れなくなったら費用は増えるから価格は上がりますよね。そうした点では枯渇は確かに値上げの要因ではあります。それに、現在のようにガソリン代が高ければ運搬の費用も増えるし・・・でも、根本的な問題は需要の低迷による採掘量の低下とそれに伴う、鉱山の閉山です。

●阿妻藻珪(そうけい)*2:長石と硅石が混合した原料。この原料の存在が美濃焼を美濃焼たらしめる。

深山:そうですね、伊藤社長のおっしゃるように、粘土の減少はもちろんありますが、何より需要の減少にともなう鉱山の売上減少。そこから派生する採掘技術開発のための投資低下。加えて、これは仕方が無いですが作業としての安全の確保のためのコスト増もあると思います。かつては狙いの地層まで垂直に掘り進んでましたが、崩落の危険があるのでより広範囲を掘り進める必要が生じますからね。でも、需要さえしっかりあれば鉱山も売上維持ができ、採掘技術も改善されると思うんですよね。

司会:粘土分の多い並土の値上げが大きいというお話でしたが、土の種類によって値上げの影響の出方が変わるわけですか?

●左が深山の白磁土、右が作山窯の黒土。

作山窯:そうですね。うちだと複数の粘土を使うから分かり易いけど、土により違うよ。でも、さっきのお話の通りで、堀り進めれば土はきっとあるけど、費用をかけて設備投資をしてもらっても、それだけの需要を生み出せないから受け入れるしかないよね。

カネコ小兵:土の使用量のデータで言うと、美濃焼でよく使われる並土(なみつち)と呼ばれる粘土分の多い原料の使用量は1995年頃は“2万5千トン”あったけど、現在は“4000トン”です。

司会:1/5ですね。

カネコ小兵:以前にも話したけど、輸出減少やライフスタイルの変化に伴って、食器が消費材から生活用品、更に一部は嗜好品となる中で、元々減少していたけど、この新型コロナの期間で更に4000トンまで減少したらしいですね。

司会:原料については単純な「枯渇」というよりも経済や社会環境など周辺の影響もありますね。それでは燃料についてはいかがでしょう?

深山:燃料は原料以上にどうしようもない。言うまでも無いけど“やきもの”は焼かないと完成しないからガス代が上がるのはダイレクトに影響します。

●現在の産業で使用される窯はエネルギーを「ガス」か「電気」を使用するものが大半。その分、燃料品の高騰は直接的に影響する。

カネコ小兵:燃料費は2021年10月くらいから上がり続けています。でもコロナからの回復に伴う需要増なんかが理由である以上、受け入れるしかないよね。

司会:この辺りは前回の座談会で日進木工さんからお話のあったウッドショック*3と似ていますね。コロナ後の景気対策としてアメリカで行われた新築への補助金で急激に住宅着工数が増加したり、中国での経済発展に伴う木材使用量の増加で世界的な木材不足といった、どうしようもない要因。改めてですが、今回の価格改訂のきっかけは「原料」と「燃料」、この二つの高騰ですか?それとも他にも要因ありますか? 2022年12月12日掲載)⇒第七回座談会「第二話 人件費はコストか?」に続く・・・*12月23日掲載予定(毎週金曜掲載)


脚注:*1abc.この粘土分は画像の「蛙目(がいろめ)粘土」などを示します。陶磁器の原料は「粘土分」と「ガラス分(長石、硅石)」が基本となり構成されます。これは磁器も陶器も共通です。異なるのはその配合率とそれに+αされる原料です。その配合率を比較すると、一般的に磁器はガラス分が多く、陶器は粘土分が多いです。有田焼などで使われる「天草陶石」は原土の状態で絶妙な配合率になっており不純物を取り除くだけで磁器を作れるという奇跡的な原料で、単味(たんみ)で使える土と呼んでいます。反面、美濃焼の場合は、そうした奇跡的な単味の原土は産出できませんでしたが、その代わり多様な粘土や長石、硅石などが産出されました。そのため美濃焼はそれら原料を配合を変えて調合する事で「白い白磁の土」や「目の粗い陶器の土」など、作り手が求める色々な種類の土を使う事が可能となり、多様な美濃焼の礎となりました。画像の「蛙目(がいろめ)粘土」は、その中でも代表的な原料で不純物が少ないため粘土としては白いため発色への影響も少なく、さらに可塑性も高いので形状も作り易い粘土分です。そのため、様々な土のベースとなっています。この粘土の特徴が前出の通り【不純物が少ない】事ですが、採掘の地層が変われば、その不純物の量も変化し精製の手間も増えてしまいます。この点がカネコ小兵の伊藤社長が指摘する【純度が低下する】という点です。
*2.藻珪(そうけい)もしくは砂婆(さば)と呼ばれるこの原料は花崗岩が風化した砂。この砂は陶磁器におけるガラス分を担う「長石(ちょうせき)」と「珪石(けいせき)」から成り立っている。粉砕をし易い事もあり原料としても使用し易くなると共に、鉄分など不純物も抜き取り易くなる為、白さを追求する事も可能となる。この長石や硅石を*1の粘土分と調合することで陶磁器の土となります。改めて粘土、長石、硅石の役割は次の通りとなる。【粘土】形を作り、それを保つ役割。【珪石】溶けてガラスとなり硬くする役割。【長石】珪石をスムーズに溶かす役割。この三つがそれぞれの役割を担う事で【使いやすい形の汚れが洗い落とし易い器】が生まれます。
*3.木材を扱う家具産業でも同様の諸費用の高騰が存在する。詳しくは『(第六回座談会)他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)編‐』の第四話『新型コロナとウッドショック』にて語られています。

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