-「やきものづくり図鑑」とは?-
イベントでの展示として行ってきたこの図鑑でご紹介しているのは「うつわやきもの相談所」に頂いたユーザーからの“やきもの”についてのご質問と、それに対する窯元からの回答から生まれた、ちょっと得する“やきもの”の豆知識。ユーザーだけでは分からない、作り手だけでは気づけない。二つがつながる事であらわになった情報を【うつわを選ぶときに編】と【うつわを使うときに編】としてウェブサイトでもご紹介しています。
-うつわを使うときに編-
●使う前に・・・
『ポイント①素材を確認!陶器か?磁器か?』
-”やきもの”の素材は「どんな土」?–
やきものは「土」で出来ている。これは間違いありません。しかし「土」にも色々な成分があります。その成分の中でやきものへの影響が大きなものが粘土成分とガラス成分の二つ。すごく簡単に表すと”やきもの”はこの二つの成分からできています。異なるのは、この二つの割合と含有物。その違いでまず大きくは「陶器(とうき)」と「磁器(じき)」に分かれます。これも簡単に表すと「粘土成分の多いものが陶器」、「ガラス成分の多いもの磁器」です。下の画像1の左が磁器のうつわ。右が陶器の器です。
なぜ最初に素材の確認が必要か?というと、それは素材により取扱いの注意点が異なってくるためです!
–『クイズ』画像2のうつわは陶器でしょうか?磁器でしょうか?–
では下の画像2の黒いうつわ「リンカ小丼 黒練釉」は陶器でしょうか?磁器でしょうか?。見た目だと表面はデコボコしていて手作り感があって、フチは少し焦げているような色の濃淡がある黒い色で仕上がっています。・・・この画像だけで陶器か磁器かを当てられたあなたはエスパーの素養があるかもしれません(笑)。少しだけヒントはあるのですが・・・。
‐正解は【磁器】。では素材はどこで分るでしょうか?‐
”やきもの”の事を少しご存じだと画像2を見ると『陶器』だと思われる方もいたのではないでしょうか?私たち窯元から見ても見た目は陶器の雰囲気があります。しかし正解は【磁器】です。実は見た目の雰囲気を生み出すのは素材ではなく『釉薬(*釉薬については「‐うつわを選ぶときに編‐【A,色を選ぶ】①やきものの色は釉薬で決まります!」にて)』の要素が大きく、この器から感じる陶器の雰囲気は釉薬からで素材ではないのです。
では、どこを見ればよいのかと言うと・・・「裏面の高台接地面」です。この部分に釉薬をつけると焼く時に棚板にくっついてしまうので、この部分は基本的に釉薬が無く素材が表れます。
この部分を見て触れて素材を判断します。判断基準は例外もありますが、大半は【白くてツルツルなら磁器】【それ以外の色でザラザラしていたら陶器】と見てもらえれば良いと思います。
続いては陶器と磁器それぞれの特徴の違いですが、その前に、このクイズのうつわ「リンカ小丼」は、なぜ素材は磁器なのに雰囲気を陶器にしているのか?その理由にはカネコ小兵のものづくりの想いが潜んでいます。(関連記事*①「日常使いの器にひそむ、カネコ小兵の想い」)
‐『陶器』はどんなもの?‐
”陶器”の代表的なやきものの産地は「益子焼」や「備前焼」「信楽焼」など。そこでは「日常使いの和食器」や「民芸のうつわ」が作られます。それらの器を想像すると陶器には色も質感も多種多様で定型を感じられないと思います。その自由度が陶器の特徴。その自由度の理由が陶器に多く含まれる『粘土成分』。粘土はその名の通り「粘っこい土」。世界中のいたるところで産出されて、庭先を掘っていたら出たという経験をされた方もいると思います。産出される場所ごとに「粒の細かさ」も「含有物」もまちまちな粘土は、含有物が少ないと粘土であっても白く焼き上がります。その代表的な産地の一つが「信楽焼」。また「備前焼」のような茶褐色に焼き上がる粘土には「鉄」が含有されています。こうした素材自体に特色の強い陶器は焼き上がる時には釉薬と反応して色や質感に変化を生み”やきものらしい面白さ”が表現される反面、成分が不均質なため、取扱いでの注意点(*注意点の一つ「目止め」については「‐うつわを使うときに編‐【A,使う前に・・・】②陶器なら目止めを!」*後日掲載予定にて)は多くなります。
參窯の中で陶器のものづくりを得意とするのが作山窯。画像4の参考製品「styleシリーズ』は鉄分を多く含んだ”黒土”にて製造されています。(関連記事*②「土ものの良さを大切にした食卓の軸となるうつわ(作山窯)」)
‐『磁器』はどんなもの?‐
”磁器”の代表的なやきものの産地は日本では「有田焼」ですが、欧米の「洋食器」のイメージも強いと思います。それらの器を想像すると磁器は基本は白くて、家でも使うけどレストランや結婚式で使われる定番の形があるといった印象でしょうか?その白さの理由が磁器に多く含まれる『ガラス成分』。粘土の多様性とは異なり、ガラス成分は長石(ちょうせき)と硅石(けいせき)の二つからなり、更には精製の過程で鉄などの含有物も取り除きます。そのため、磁器は多少の違いはあっても全て「白」の範疇に収まる色合いとなります。このガラス成分を高温で焼く事で表面はツルツルに仕上がり、吸水性も無くなるため、汚れづらく手軽にお使い頂けます。ただ釉薬との関りとしては、あくまで釉薬の色を鮮やかに発色するベースとなるため陶器を比較すると味わいは抑えられます。
參窯の中で磁器のものづくりを得意とするのが深山。画像5の参考製品「パレットプレートシリーズ』は磁器の特性を活かして機能的な器を製造します。(関連記事*③「鋳込み技法だからできる暮らしを軽やかにする仕切り皿(深山)」)
‐(余談)何故『美濃焼』では磁器も陶器もつくれるのか?‐
陶器と磁器の説明で様々な産地を紹介しました。その中では産地ごとに得意な素材が分れていました。ではなぜ『美濃焼産地では陶器も磁器も作れるのでしょうか?』。答えは割と簡単で、その原料が全て算出されたからです。しかし、本当はもっと複雑で、正確には、他の産地ほど単体で個性の強い原料は産出されなかったが『工夫をして組み合わせて使える原料は産出されたから。』です。下の画像6が岐阜県東濃地区および隣の愛知県瀬戸地区で産出された原料群の一部です。陶器にも磁器にもなるこうした原料と、それを創意工夫で”やきもの”に仕上げた先人の努力。結果として美濃焼は産地としての特性よりも窯元毎の個性が強い地域となり。現在も300近くの窯元で国内の約6割のやきものを製造しています。(関連記事*④「美濃焼について思う事(全14話)」)』
‐素材が分かると・・・‐
”やきもの”は土で出来ています。しかし土にも様々な個性があり、それにより使うときの注意が必要となります。その第一歩が「陶器か?磁器か?」を知る事です。この後は使う前のポイントを②「陶器なら目止めをしましょう!」、③「表面の仕上がりを確認。カトラリーとの相性があります」、④「裏面を確認しましょう!高台は滑らかですか?」としてご紹介しますが、それぞれ素材により注意点が変わってきます。それに・・・陶器か磁器かで”やきもののとしての面白さのポイントも異なってきます”。楽しく、そして心地よくお使い頂くために、まずは、お手元の器が「陶器なのか、磁器なのか」ご確認下さい。(2023年6月8日掲載)
■関連記事
*①日常使いに潜むカネコ小兵の想い
*②土ものの良さを大切にして日常の軸となる器(作山窯)
*③鋳込み技術だからできる暮らしを軽やかにする仕切り皿(深山)
*④美濃焼について思う事(全14話)
【やきものづくり図鑑‐目次‐】*目次ページはコチラ
‐うつわを選ぶときに編‐
【A,色を選ぶときは?】
①やきものの色は釉薬で決まります。(2023年5月29日掲載)
②土の種類で釉薬の発色は変化します。(2023年9月1日掲載)
③釉薬と土は施釉で一体になります。(2023年9月29日掲載)
④焼いて生まれる!色の変化とグラデーション(2023年10月27日掲載)
【B,形を選ぶときは?】
①積み重なりを確認しましょう。*順次掲載予定
‐うつわ使うときに編‐
【A,使う前に・・・】
①素材を確認!陶器か?磁器か?(6月8日掲載)
②陶器なら目止めをしましょう!*順次掲載予定
③表面の仕上がり確認。カトラリーとの相性があります。*順次掲載予定
④裏面を確認しましょう!高台は滑らかですか?*順次掲載予定
【B,使っている時に・・・】
①電子レンジを使うときには!*順次掲載予定
②食器洗浄機を使うときには!*順次掲載予定
■過去の座談会記事一覧
〉〉〉第六回座談会『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)-』アーカイブはこちらから
〉〉〉第五回座談会『野口さんとふりかえる2021年』アーカイブはこちらから
〉〉〉第四回座談会『美濃焼について思うこと』アーカイブはこちらから
〉〉〉第三回座談会『作り手の大切な器、我が家の食卓』アーカイブはこちらから
〉〉〉第二回座談会『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』アーカイブはこちらから
・・・・・各窯元ウェブサイト・・・・・
參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/
參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/
參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/
・・・・・參窯ミノウエバナシ contents・・・・・
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