『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』*深山編三つつ目:素材の限界で焼きあげる白磁から続く
―作山窯とカネコ小兵から見る深山の凄味―(語り手:作山窯・高井社長、カネコ小兵・伊藤社長、受け手:深山・松崎社長)
『四つ目:職人が支える白磁としての器の仕上がり』
高井社長:本当うちから見ると深山さんは、白い器でこれだけのものができるというのが羨ましいですね。うちでは白は絶対できないので。
松崎社長:そうやって言われるじゃないですか。本当にそうなんですか?
高井社長:できないです。やっぱり職人もその感覚も違いますね。だから商品開発まではできるかもしれないけど製品化は難しいと思う。働く人の素材に対する意識や、あと当然、手の慣れもあるからね。白磁は白磁の工場の職人さんがいて、土物は土物の職人がいる。職人のタイプの違いですよね。どこかの展示会で深山さんの白磁を初めて見たときに、すごいなと、こういう職人がいるのが羨ましいなと思いましたね。商品開発にしても、製造工場にしても、結局は人じゃないですか。そういう人がいる会社ってのが羨ましかったというのはありますよね。人の管理の面でも深山さんは僕にとっては目標であり、ああなりたいと思うところはありましたね。
松崎社長:ありがたいです。でも、それは特定の誰かが凄い訳ではなくて40年以上白磁製造を続けた中でお客さんにも育ててもらいながら自分たちの特徴が形成され、それが品質管理も含め受け継がれてきたのだとと思います。その一つの例として「鋳込み口の位置をどこにするか?」という点があります。想像ですが、完成品の検査をする時、ポイントとなる点は各社異なると思うんです。それが僕ら深山の場合は、特に圧力鋳込み*26の製品だと、白磁では目立ち易い鋳込み口*27のキレ不良や泥のぶつかり*28による変形いう不良です。この点が白磁の器の品質として課題となる点なので・・・。もちろんその課題が生まれないよう設計段階から注意します。ですがその上で、原料に変化があったからなのか最近は特に高台に鋳込み口を設定すると形状によってですがキレという不良が入ったりするので鋳込み口を高台以外の場所に設定しますが、その位置を決めるのに受け継がれたノウハウが存在します。
伊藤社長:高台じゃないと、どこから鋳込むの?
松崎社長:形状や大きさに合わせて検討するので一定ではないですが、傾向としては真円の形だとセンター(器の中央)に、厚みがある形だと高台の横の底面裏*29に鋳込み口を設定する事があります。そうして試作しても、また課題が発生する事があるので、その課題状況に合わせて調整します。例えば、大きな皿をセンター(裏面中央)から鋳込むと「圧力がかかりすぎて、その反対面の器表側が盛り上がってしまう」ことがあるので、その場合は鋳込み口位置を調整して、上手く形が整う場所を見つけるようにしています。
伊藤社長:高台からでもいいんじゃないの?うちはほどんど高台やけど。
松崎社長:多くの形状は高台からでも問題ないのですが、例えばですが、特に底面に厚みのある形状やサイズの大きい形状の場合は、白磁土の生収縮率*30の大きさが影響して、素焼きで温度が上がる時に厚みが違うところの収縮タイミングがずれて鋳込み口からパクっとキレたり、泥の注入が偏って変形してしまうことがあります。そうした形状の時に鋳込み口の位置を調整する事がありますね。
松崎社長:加えて素焼き*31工程でも、特に圧力鋳込みは鋳込み口からキレたりすることもあるので、急激に温度を上げては焼けない*32ので、素焼きであっても温度管理を注意しないといけない点があります。これ(sasasa8oldglass)はガバ鋳込みなのでいいんです*33けどね。これらの受け継がれたノウハウのもと職人が、それぞれの器に合わせて作業を行いブラッシュアップして、また次に受け継いでいければと思っています。
伊藤社長:なるほどね、さっきの職人の話じゃないけど、上から「やれ」じゃなくて職人が自ら出来るようになったっていうのがすごいな。「出来ないよ」って思ってたものが、職人が銅版を貼っているうち努力して工夫してにできるようになったとことがね。(2021年3月26日掲載)〉〉〉(カネコ小兵その1「ぎやまん陶をぎやまん陶とするために」に続く)
(取材後記)『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』深山編は今回までとなります。岐阜県瑞浪市で器を作る深山の源流は、その地域がかつては世界でも有数の洋食器の生産地として欧米のハイブランドの下請けとして名前は表に出ないながらも、上質なものづくりをしてきたことにたどり着きます。目に触れることなくとも研鑽を続けたそれぞれの製造工程の従事者たち、そうして積上げられたものを受け継ぎ、次につなげていく、その過程となる一つ一つが今回の凄味としてお話頂いたように感じます。下記にそれぞれのへのリンクをまとめましたので、改めてご覧頂ければ幸いです。次回よりカネコ小兵編がはじまります。
(注釈)*26、成形方法の一種。主に仕切り皿や四角形など変形ものと呼ばれる器を成形するのに適した技法。上下二つに割れる石膏型の中に器の形そのものの空洞があり、その石膏型に小さな穴を空けて、その穴から圧力をかけて泥を注入する成形方法*圧力鋳込み成形の動画はコチラから *27、石膏型に開いている泥を注入するための小さな穴。たいてい器の裏面にあり、焼きあがった後も何となく見えるので、裏面を見て「これは鋳込みで作ったね」と言うとものづくりが分ってる感が出る。 *28、鋳込み口から石膏型の中に入った泥は、通常は鋳込み口を中心に同心円状に広がり均一な密度になりますが、例えば仕切り皿のような厚みが複雑な器の場合、泥の広がりが不均質になり、泥と泥が一度二手に分かれて、その後また合流するケースがある、その合流する場所は泥がぶつかり合っているため他の場所より密度が強くなり、その部分だけ焼いた後に盛り上がってしまう現状が生じる。その現象を「泥のぶつかり」と表現する。 *29、通常、鋳込み口は高台に配置するケースが多いが、器の形によっては、センターと呼ぶ裏面の中央部や、ハマ元と呼ぶ高台の付け根に配置するケースもある。深山の白磁土は些細な泥の密度の違いで形状の変形や前述の高台のキレが生じる為、形状毎に最適な鋳込み口の配置を検討している。 *30、生収縮率とは、成形後から素焼きまでの間におきる収縮。深山の白磁土はガラス質が多く粘土分が少ない調合のため、焼きあがるとガラスの様に硬く仕上がるが、生の段階では微かな衝撃で破損やキレと呼ばれるクラックが入り易い。特に鋳込み口は唯一型で覆われていない部分のためキレが生じ易い *31、約800度程度で行う焼成。絵付けや釉薬掛けなど次作業をスムーズに行うため吸水性を高める目的での焼成。粘土内の水分を飛ばし、水で溶けない程度に固めることで、顕微鏡で見ると細かい穴がたくさん開いている多孔質な状態とし、器の吸水性を上げる。この吸水性により、絵付けや釉薬掛けが行い易くなる。英語ではビスケットファイヤーと呼ばれ、焼き上がりの硬さはちょっと歯ごたえのあるビスケットもしくは固焼き煎餅程度 *32、素焼きの際にガス圧を上げると温度は急激に高くなるが、急激な温度変化は急激な生地の収縮を伴い、その収縮に耐え切れず製品にキレと呼ばれるクラックが入るため、ガス圧をコントロールし温度上昇を適性に保つ必要がある。 *33、ガバ鋳込みは、その成形の特徴から器の肉厚が均一になるため、ガス圧をあげて急激に温度を上げ、急激な収縮がおきても全体が均一に収縮するためクラックが生じない。深山でのガバ鋳込み製品の素焼きは800度までを約4時間で上げて焼成する。
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