第七回座談会 「原料高騰と価格改訂から想うこと」(第四話)見えるノウハウと見えないノウハウから続く
―(第五話)『100円ショップの製品と何が違うの?』(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、作山窯 高井社長、深山 松崎社長 司会:深山 柴田)
司会:効率的なノウハウの存在は“ものづくり”にとって重要ですが、その結果として製造作業は一見とても簡単そうに見えてしまいます*1。実際に簡単な作業にするために複雑な工夫をしているわけですから当然と言えば当然ですが、その工夫は目には見えない訳なので、使い手には製造作業の奥深さは伝わりません。そうすると、例えば「100円ショップの製品と何が違うのか?」という質問に対して、どう答えれば良いのだろうと悩むことがあります。もちろん専門的には説明できますが、難しい言葉では使い手に伝わらないだろうから・・・どう説明すれば伝わると思いますか?
カネコ小兵 伊藤社長(以降、カネコ小兵):違いは明らかにあって、その答えはあるんだけど、それをどう伝えるか・・・と言う事ですよね。そうだな、どう説明すれば良いかな?例えばだけど松崎社長の趣味って何ですか?
深山 松崎社長(以降、深山):趣味と言えるかは分かりませんがゴルフですかね…。(笑)
カネコ小兵:であればゴルフクラブで例えるとね。同じメーカーのクラブでも初心者用と上級者用では単価が違うじゃないですか、理由はシャフトが違うとか、しなりが違うとか色々あるけど、ゴルフが趣味の人であれば理解できるじゃないですか。興味がある人か、そうでないかで理解できる範囲は違うと思うんです。だから食器の使い手も、何となく食器を使う人みたいなイメージでとらえるのでなくて、もっと身近にいる深山さんなら、深山さんの器を使う人をイメージして説明を考えてみたらどうかと思うんだよね。
司会:まずは関心を持ってくれている人が分かるような内容で伝えるということですか?
カネコ小兵:そうだね、そもそも関心の無い人はどれだけ伝えても買わないから、多少専門的でも良いから違いを伝えれば良いかな、そのためなら比較して説明した方が分かり易いかもね。この三つの窯元なら、それぞれこだわってる事があるから伝えるものは十分あるからね。
深山:もちろんあまり関心が無い方でも色々な事例を挙げながらしっかりと説明すれば伝わるかもしれないけど、どうしても時間がかかる。全てを聞いてもらうのは難しいですからね。まずは身近にいる関心のある方にしっかり伝える方法を考えるべきですね。
カネコ小兵:リーズナブルな製品との違いを端的な表現方法で言うなら、【私たちは、素材や技術にこだわって手作りで生産するので一日に200個しか作れません。その200個を一生懸命作っています。機械を使う量産メーカーなら一日で数万個作れます。その生産スタイルの差はありますよ】と。手作りという点では、陶芸家と大きな違いは無いと思ってるんです。陶芸家の作品に「100円ショップの器と何が違うの?」とは言わないと思うんです。器ややきものに関心がある方なら、それでも十分に伝わると思うんですよね。
司会:小兵さんは「窯や小兵」と言うイベントを行われていますが、その来場者がそういうこと聞くことは無いですか?
カネコ小兵:全く無いね。「よく類似品を目にしますね」とは言われますけどね。イベントをやっていて思うのは、昔は窯元に直接行けば安く買えると思われていたけど、今は違うね。窯元まで足を運ぶ理由は“その器が欲しい”から、加えて、そこで“ものづくりのストーリーを知れるから”、だから割引しなくても満足感を得て頂ける。安く買う事だけが目的ならネットで十分。安く買うためだけにわざわざ岐阜県の窯元まで足を運ぶ人は減ってるんじゃないかな。だから、こちら側もかつての陶器祭りのような感覚を改めた方が良いかもね。
司会:価格の違いは作家なのか産業なのかという事ではなくて、そのものづくりのスタイルに由来するわけですね。ただ、産業と言う言葉でひとくくりにしてしまうと伝わりづらいから、まずは関心を持って頂ける方だけにでも窯元それぞれが顔が見えるようにすれば、理解頂ける幅が広がるという様な・・・(2023年2月3日掲載)⇒第七回座談会「(第六話・最終)価格に託されたもの」に続く・・・次週は掲載をお休みします。次回は2月17日掲載予定(毎週金曜掲載)
脚注:*1.工場で目に入るのは、スタッフが黙々とそして淡々と生産を行っている姿です。決してアクロバティックでもなく、ものすごくスピーディでも無く。そのため、何となく見ているだけだと誰でもできそうに見えてしまうかもしれません。しかし、その作業の一つ一つは、より良いやきものを生み出すために試行錯誤された“ものづくりの形”です。「淡々と」は「無駄な手順を踏まずに」という事、「黙々と」は「器の状態に注視して」という事。画像でご紹介している「線引き」の作業も、目を凝らしてご覧頂くと、ロクロに置いたうつわを自然な作業の中で中心に置いています。産業においては難しい事を難しく見えるように行う事は良い事ではありません。難しい事を工夫によってスムーズに行えるようにして、無駄を除いて適正な費用で制作し、使い手に届ける事が、産業のものづくりの理想の姿です。
*2.器の裏面には、ものづくりの背景が見て取れる様々なポイントがあります。まず一つは「テーブル接地面の質感」。テーブルの接地面(高台やハマと呼びます)には釉薬を施すことができないので使っている土の質感が表れます。何故ならそこに釉薬があると焼成時に溶けて棚板にくっついてしまうからです。そのため、この部分には使用している土の質感が表れます。參窯では深山とカネコ小兵は「磁器」の土を、作山窯は「陶器」の土を使っています。器の表面は釉薬に覆われている為、どんな土を使っているかは分かりませんが、この接地面で土の雰囲気を確認できます。次のポイントは「ロゴ」。もちろんロゴに書いてある情報もポイントですが、どんな方法でロゴが入っているかというのもポイントです。画像の豆皿のロゴは窯元それぞれ異なる方法で入っています。まず深山は、透明感のある釉薬の光沢の美しさが特徴であるため、釉薬の下に銅板転写下絵付け技法(技法の詳細は『162年間かけて生まれた釉薬銅板下絵技法のカップ』でご紹介)でロゴを付けて透けて見えるようにしています。次に、カネコ小兵のぎやまん陶は色が濃く下絵技法では見えなくなってしまうため、それに撥水(水をはじく仕上)を加え釉薬とロゴが混じらないように仕上げています。最後に、陶土の質感を大切にする作山窯では、絵付けではなく刻印という判子を押す技法で土に凹凸をつけてロゴを表現する事で土の質感を表しています。このように器の裏面には素材の質感や裏印を入れる技法の違いから見てとれる窯元の想いが潜んでいます。
*3.CCC(セラミックバレークラフトキャンプ)瑞浪の詳細は『(番外編)レポート-ceramicvalley craft camp mizunami-』 にてご紹介しています。同イベントは今年は土岐市で3月11日㈯、12日㈰の二日間開催。本年も參窯は出展予定です。是非お立ち寄りください。
■過去の座談会記事一覧
〉〉〉第六回座談会『他産地、他素材のものづくりに触れて-日進木工(高山市)-』アーカイブはこちらから
〉〉〉第五回座談会『野口さんとふりかえる2021年』アーカイブはこちらから
〉〉〉第四回座談会『美濃焼について思うこと』アーカイブはこちらから
〉〉〉第三回座談会『作り手の大切な器、我が家の食卓』アーカイブはこちらから
〉〉〉第二回座談会『作り手として感じる、それぞれの窯元の凄味』アーカイブはこちらから
・・・・・各窯元ウェブサイト・・・・・
參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/
參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/
參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/
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