(問二)伊藤社長の記憶に残る出来事は何ですか?-ミノウエバナシ特別編「三つの窯元に”七つの質問”」-

-三つの窯元に”七つの質問”- 美濃焼産地で時代を意識しながらも自らのものづくりを全うするカネコ小兵作山窯深山の三つの窯元。その内なる想いを露わにするため、それぞれの代表に七つの質問を致しました。二つの質問には必ずお答え頂き、残りの五つは自由回答としてお話を伺いました。他社のスタッフがインタビュアーとなり、どの質問にどうお答え頂けるか?それぞれの窯元を想いをご覧ください。


‐窯元情報‐株式会社カネコ小兵製陶所 https://www.ko-hyo.com/ 
・所在地は土岐市下石(おろし)町。現在でも50以上の窯元が存在する一大生産地。
・創業は1921年(大正10年)。2021年に100周年を迎えた。
・伊藤克紀社長は三代目として1997年(平成9年)に就任し26年目となる。
・企業理念「やきものづくりを通して暮らしの中の小さな幸せを届ける」
・創業当初は神仏具を製造し、二代目から日本酒の徳利専門メーカーとして生産量日本一になるが社会環境の変化から徳利の需要が減少した為、三代目となる伊藤克紀社長より本格的な食器製造を開始「ぎやまん陶」「リンカ」などオリジナル製品の開発を行う。時代時代の人の営みと、やきものの道具としての存在感を結ぶ窯元。

(問二)『伊藤社長が仕事をしてきて記憶に残る出来事は何ですか?』(語り手:カネコ小兵 伊藤社長、聞き手:深山 柴田)

 それはぎやまん陶がクリスチャン・ディオールで採用されたことだね。2010年の2月のアンビエンテ(ドイツのフランクフルトで開催される世界有数の生活用品見本市)で目を留められて、その年の8月からディオールの本店に並んだ。この時は最高にうれしかったね。見本市で応対していた貿易商社の方から国際電話がかかってきて、「伊藤さんディオールから引き合い来たよ!」って言われて驚いたよね。

●当時を想いおこすカネコ小兵の伊藤社長

ぎやまんにかけたものづくりが実った!と言う実感ですか?-

 「漆ブラウン」という釉薬を開発して、それを色々な形状で試作した中で伝統的な【菊型】で試作したら、ガラスのように見えたので、これは!と感じて「ぎやまん陶」を作り始めたのが2006年。そして産地での見本市に出品できたのが2008年の冬だったか、2009年の夏だったかあやふやだけで、そこで目に留めた貿易商社の方がアンビエンテに持って行って得た機会ですからね。それもまさかいきなりディオールですから驚きもひとしおです。

 でも、これで【日本の和食器が世界に認められるものである】ことが実感できました。

●漆ブラウンを使用した最初の製品「ハス冷酒器」

●漆ブラウンと伝統の菊形を組合せ生まれた「ぎやまん陶」

パリの本店にも行かれたんですよね‐

 2010年から取り扱い開始して、2012年に初めて伺い、その数年後にもう一度。計2度訪問しました。そこでは選んでくれたバイヤーさんにもお会いして当時の話も聞けましたね。日本の美意識もご自身の美意識も両方を大切にされている方でした。

 こんな話があるんですが、初めて訪問した時に、せっかくなので何か提案できればと思って当時流行っていた「カフェオレボウル」をぎやまん陶の雰囲気で作って持って行ったんです。そうしたら「なんでこんなものを作るんだ!私たちは世界中の美しく良いものを探し紹介したいと思い選定している。だからフランス文化に迎合されるようなものを作っても私は買わない。」と叱られました。そして色についても「青」が絶対に良いという事で、最終的に「ぎやまん陶 茄子紺ブルー」を選定頂いたんです。

  • ●クリスチャンディオールに採用された『ぎやまん陶』の茄子紺ブルー

 これは私のものづくりにとってとても大きなことでした。だから今もものづくりは迎合する必要はない。良いとおもったものなら作ったらいい。と考えています。

-”良さ”と言うのは抽象的ですが、何か基準がありますか?

 確かに、何を“良い”と選ぶかは個人の感覚ですよね。でも、例えば日本人であれば、それを選ぶ背景には、きっと日本の四季の美しさの様な日常を過ごす中で身についてきた感覚があると思うんです。だからそれは個人の感覚ではあるけれど同時に日本の美意識でもあると思うんですよね。だから琴線に触れることがあったらそれを素直に“良し”として反応すれば良いと思うんです。基準と言うほどしっかり考えていないね。

 そうした感覚的なものだからこそディオールに選ばれて実感を得たのだと思う。日本の美意識を培ってくれた先人たちには感謝ですね。まさかそこまで行くとは想像してなかったけどね。

●ショールームに並ぶぎやまん陶を紹介頂く伊藤社長

 繰り返しちゃうけど、国際電話がかかってきたときは「何の話?」って感じだった。その貿易商社とは昔から付き合いあったけどわざわざ国際電話で連絡するような人じゃなかったから。そういう意味では、この人の縁もポイントでしたね、どれか一つ欠けてもディオールには繋がれなかったと思うから。記憶に残るって言うのは、クリスチャン・ディオールに採用されたという事だけでは無くて、そこに至るまでに培ったもの、そして出会ってから得られたものが、今の私に大きな影響を与えているからだと思うよ。次の記事につづく2023年4月7日掲載)*毎週金曜掲載


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■(問一)それぞれにとって欠かせないものは何ですか?への回答

「カネコ小兵にとって欠かせないものは何ですか?」

「作山窯にとって欠かせないものは何ですか?」

「深山にとって欠かすことができないものは何ですか?」

■(問二)へのそれぞれの窯元 の答えはコチラ

「伊藤社長(カネコ小兵)の記憶に残る出来事は何ですか?」

「高井社長(作山窯)の記憶に残る出来事は何ですか?」

「松崎社長(深山)の記憶に残る出来事は何ですか?」

■(その他の質問/最終話)へのそれぞれの窯元 の答えはコチラ

「カネコ小兵/前編-”産地の特性”と”窯元の個性”大切なのはどちら?-ほか」

「カネコ小兵/後編(最終話)-一緒に働きたいのはどんな人?-ほか」

「作山窯/前編-これからのやきものの生き残る可能性は?-ほか」

「作山窯/後編(最終話)-一緒に働いてみたいのはどんな人?-ほか」

「深山/前編-気になる自社製品は?その理由は?-他」

「深山/後編(最終話)-”産地の特性”と”窯元の個性”大切なのはどちら?-他」

 

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■過去の座談会記事一覧

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參窯その1:カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市下石町)https://www.ko-hyo.com/

參窯その2:作山窯(岐阜県土岐市駄知町)http://www.sakuzan.co.jp/

參窯その3:深山(岐阜県瑞浪市稲津町)http://www.miyama-web.co.jp/


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